Land of Riches


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 2016年07月04日(月)   伝統は鎧か足枷か 

金沢2日目。
まずホテルの話。最近は駅からの距離を優先することも多くなりました。
今回は京都に続き、駅直結をチョイス。京都は近鉄、金沢はJR西日本グループですね。
線路脇だと、仙台のアパホテルみたいに音が…という可能性もあるんですけど、
そこは鉄道会社が絡んでいるだけあってか、全く問題ありませんでした。
というか、アパの壁が薄すぎるだけだ全国的に!(笑)

J2のお約束・日曜ナイター翌日は公共施設が休館で途方にくれる土地が多い中、
金沢はあまり休みを取る施設もなく(年末年始のみ休みが多い)さすが観光地というところ。
土日100円で乗れるバスが平日価格の200円になるくらいでしょうか。

金沢のバスは自治体が絡まず、北鉄とJR西日本が縄張り争いしてて分かりにくいのだけが
納得いかなかったので、厳しいご意見歓迎という石川県観光連盟に投書してしまいましたけど。
(アンケートも郵送可で、そのハガキも送料受取人払と物凄く意識が高い石川県)

最初は昨日も行った長町武家屋敷へ。
前日は無料の足軽資料館を見たのですが、唯一の有料公開屋敷である野村家に
加州清光の脇差があるとtwitterで知って慌てて行ってきました。

熊本遠征から中1週で、実はほとんど下調べできなかった金沢。
幸か不幸か、下調べしないと時間も潰せない他の刀剣展示とは違い、バリバリの観光地です。
切符もなかなか取れなかったという北陸新幹線開業ブームは落ち着いたとは言え、
本屋に行けば、まずどれを手に取るか迷うぐらいガイドブックもあふれています。

現地も案内(パンフレットとか)が充実してて…自分から取りに行かないと見つからないのは
それこそ偏ったジャンル情報である刀剣展示絡みだけだったりするのです。

野村家は藩祖・前田利家に尾張時代から仕えた家柄で、その屋敷は今に
加賀藩らしい庭園の趣を伝えています。金沢は庭園が多いんですよ、福岡と違って。
福岡は黒田家が倹約志向だったので、藩主の別邸も友泉亭くらいしか残ってないのです。

野村邸は、幕末〜明治に屋敷が北前船で稼いだ商人の手に渡り、
藩主がその収益を頼りにしてたびたび訪問した経緯もあって、他の部屋より
一段高く造ってある(床板が全面桐!)豪勢な客人用ルームも残っています。
本丸も、審神者がいる部屋だけ一段高いのかな…と思いながら眺めてました。

別室に展示されている刀は野村家とは特に関係なく、鑑定された寄贈品を
置いたものでした。これが伝来の古文書ともども撮影フリーで驚きでした。
最近は撮影可の美術品も多いのですが、金沢は基本的にNGが多かったので余計に。

金沢の有名観光スポット・21世紀美術館はオーソドックスな月曜休館。
と言っても、休館なのは“美術館管轄の有料スポット”のみで、
無料部分(あの有名なプールを上から見たり)や貸出ギャラリーは入れて、
ぶっちゃけ休館日なのに観光客が想像上にウロウロするところでした。
私、美術館はいまだに見方が分からない奴なので、むしろ休みで良かったかも…。
(休館だと当日知って、それで野村家に足を運んだ面もある)

地図では分からない高低差―上り階段(!)を雨の中がんばってたどり着いたのが
今回の遠征の目的地・石川県立美術館。まずは手前にあった無料の分館から。
この建物も歴史的建造物(師団長官舎)転用なのですが、現在は文化財修復の工房です。
(厳密には工房は横に新設された建物で、転用部分は修復についての展示室)

日本の公立施設としては4ヶ所の国立博物館に付属するものしかなくて、
都道府県として修復工房を保有してるのは石川県だけだそうです。
しかも、石川県では工房をガラス張りして作業を公開。
この日も何かに裏打ち紙を貼る作業が行われていました。

ここまでまともに食事を摂っていなかったため、本館ではカフェに直行。
ミュージアムのカフェはホテル系列が入ってたり意外とハイソだったりしますけど、
金沢は辻口パティシエのル・ミュゼ・ドゥ・アッシュが入店する高レベル。

当然ながらスイーツの名店で、入口でまずケーキ食べに来たのか聞かれるのですが、
私が食べたかったのはランチ。スイーツでも石川県産にこだわる辻口さんの店らしく、
ランチのサンドも県産の鴨肉(メモ取れなかったので記憶が曖昧)などを使用。
何が凄いって、皿に彩り用のソースが添えられ、サンドのくせにフォークとナイフが
供されるようなメニュー(白菜のスープ付き)のくせにお値段3桁なこと。
結局手づかみで食べた貧民にはある意味お似合いである。

ランチ食べると半額でドリンクがつけられるのですが、スイーツの店なので
ブレンドティーもめちゃくちゃ繊細に淹れられててとても美味しかったです。
ゼフィールという柚子と合わせたポットの紅茶でしたが、他のも興味深々でした。

美術館には9つの展示室があるのですが、8と9は加賀友禅や二院展に貸出。
県が管轄する展示は7部屋だったんですけど、なんと第1月曜は無料。
期せずしてタダで入ってしまいました。

主目的以外の展示は野々村仁青作・雉の香炉(つがい)のみ1部屋を当てたり、
近現代コレクションとして歴史小説の挿絵で知られる(私も知らず知らずに
見たことあるタッチでした)地元出身の山崎百々雄展、および『生活の中の工芸』と題して
県にゆかりがあったりなかったりする様々な工芸品を展示。

おめあての古美術コレクションと並べると、まさにオールジャンル正統派美術館でした。
ごくごく普通の絵画や彫刻もクラシックから現代物までありましたし。
この王道っぷりは、近現代の尖ったアートは21世紀美術館が担っている
住み分けに起因しているようです。近所に2つも公立美術館あるわけですから…。

前田育徳会尊敬閣文庫(正しい字が変換できない、ごめんなさい)別館は
専用で占有されている部屋です。前田育徳会は前田家の伝来品を保管すべく
設立された財団で、東京の駒場にあり、その特色は保管品を外にほぼ出さない点にあります。
この辺は他家とはかなり違っていると、個人的には思います。

関東大震災で失われていく文化財を見て設立されたとされていますが、
最優先とされたのは古典籍、文書です。黒田家でも古文書は最優先扱いでしたけど、
その中身は先祖がもらった手紙だったのに対し、こちらはガチの書籍ですね。
財団設立資金を捻出するため、刀剣はほとんどが売却されたとされています。
(例:ブレストシーブ社長が保有する愛染国俊や今トーハクで展示されている相州行光)

毎年6月に金沢では百万石まつりが行われ、この時期に武具を展示するのが通例とされてますが、
その中身は甲冑や陣羽織で、刀剣は昨年、新幹線開通記念で行われた大規模特別展で
展示された天下五剣・大典太はじめ3振りが30年ぶりの展示だったように秘蔵されています。
この(残された)刀を特別視する姿勢が、他家と完全に一線を画してます。

大典太らの展示時に、とうらぶで実装されている前田藤四郎は展示しないのかとの
要望が新聞報道では4000件を超え、問い合わせに耐えかねたのかどうなのか、
石川県が前田育徳会に難易度高い交渉(学芸員の世界では前田育徳会の
ハードルの高さは有名らしい…今回も大金を積んだとの噂)を行った結果、
1ヶ月+延長1ヶ月の前田くん里帰りが実現したのでした。とうらぶブーム凄い。

金沢で前田くんが展示されるのは、なんと53年ぶり。
今回、私が無理やり北陸行きを決めたのは、前田くんが次いつ展示されるのか、
私が生きている間に再びチャンスがあるのか、怪しいと知ったからでした。
箱入り息子なので、ポストカードや図録の作成も一切できないとのことです。

前田家らしい、かぶいた独創的デザインの陣羽織らが並ぶ中、
ボックスティッシュとtwitterで一時期騒がれていた前田くんは、
白鞘(来歴が綺麗な字で描かれたもの)を横に、上品に輝いてました。
根元に向かうにつれ、ほんのりとふくらんだカーブが彼固有のプロポーション、
肌の輝きは後藤くんや他の藤四郎と共通するきめ細かい美しさを宿したもの。
藤四郎ばっかりたくさんあって…とよく思うのですが、実際に展示を見ると、
どの藤四郎も美しくて、大切にされて当然だと納得できてしまうのです。

隣の第2展示室では琳派特集。京都でもあったのですが、艶やかな琳派の絵画と並んで
本阿弥の本職として刀絵図が展示されているのって、なんだか不思議な感じです。
マルチタレントってことですね。太閤のコレクションを写した長い巻物なんですが、
今回は前田くんに合わせてか、藤四郎兄弟を描いた部分が公開されてました。
親子、小乱(乱ちゃん?)、鎬、豊後、新身、北野、包丁、鯰尾、そして乱刃の一期。
どれも藤四郎なのですが、その違いがしっかりと描かれていました。
再刃前の一期はロイヤルホストじゃなかったんですね…。
ゆっくりと見られて非常に満足でした。それにしても何振りいるんだ藤四郎兄弟。

残りの時間は石川県立歴史博物館と加賀本多博物館で消費しました。
金沢はミュージアムもたくさんあって前にも触れた住み分けが進んでるせいか、
県立歴史博物館も2棟(旧日本軍の赤レンガ倉庫を転用した歴史的建造物)あるうちの
片方は無料の交流・学習スペースに使い、全時代を眺める“普通の博物館”であるもう片方も
北陸新幹線ルートになぞらえた参勤交代をたどる映像を模型と共に見せるといった調子で
実にゆったりしており…最後の部屋は県内のお祭りを壁3面いっぱいに映し、
床が動きに合わせて振動するという贅沢の極み?になってました。お金あるのか石川県。

駅に戻って土産物探すのも、目移りするぐらいバラエティに富んでて。
金箔使っとけばいいだろ感は否めないけど。
これが真の観光地なのかと気おされた二日間でした。
ここまで観光客用に洗練されてる土地は、他に京都しかないんじゃないかと。

2016.7.9 wrote


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