Land of Riches


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 2010年09月09日(木)   『正義のミカタ』(本多孝好)を読んだ。 

今日の行き帰りだけで読破。若干斜め読みですが。
帰宅後、各所のレビューを見てみたんですけど、オチの好き嫌いは
予想通り…分かれてました。そりゃ、分かれますよね。

この物語の主人公(男の子)は、高校時代いじめられっ子だったのですが、
大学デビューでの脱皮を目指し、ひょんなことから「正義の味方研究部」へ入部。
なんと、特撮やアニメを研究するわけではなく、自分たちがそれを実践する部だったのです!!

「正義の味方」を冠するにふさわしく映る力量を持つ先輩や同級生と出会い、
また、「正義の味方」として潜入した先で遭遇した相手に影響され、
エンディングで主人公が選んだ「正義」に同感できるかできないかで
読後感は左右されると思われます。私は、まぁそれもありかな、といったところです。

「正義とはつまるところ、大いなる私情ですから」
横山版ではない、電話帳のように厚い三国志マンガを小学生時代に
父親に買い与えられ…その締めくくりに出てきたのが、この言葉でした(うろ覚え)。
諸葛孔明が関羽の敵討ちに燃える劉備を諌め損ね、軍師の眼で客観的に見たら
意義の薄い戦いへ出陣する主君を見送りつつ、こう呟くのです。


※そんなの気にする人がここを見るとは思えないけど、一応警告。
 ここからゲームFate/StayNightやFate/Extraのネタバレ入ります!






「正義の味方」と言えば、私が今メロメロになっている赤い弓兵さん。
(だからこそ、この文庫本も衝動買いしたのは間違いない!)
Fate/EXでは『彼は大衆が望む都合のいい「正義の味方」の概念が、
人のカタチで起動したものである』と情報マトリクスに書かれております。

「自分は生前、正義の味方だった」と、アーチャーは、声色とは裏腹の
爽やかな顔(!)でマスターたる主人公へカミングアウトするのですが、
これを聞いた主人公、幼少期ならともかく、大人になっても本気で口にするのは
憚られる的なモノローグを返します。真っ当な反応ですよね。

いよいよ明後日から、新宿のスクリーンで再びお目にかかれる(嬉しい♪)
映画版UBWは、主人公・士郎とアーチャーが、この概念を挟んで真っ向から
激突するためにエピソードを積み上げていく展開となっています。

正義の味方を長く続けたアーチャーは、過酷な現実に理想を削り取られていきます。

「何も争いのない世界なんてものを夢見たわけじゃない。
 ただ、俺は、せめて自分が知りうる限りの世界では、
 誰にも、涙してほしくなかっただけなのにな」

「俺はただ、誰もが幸福だという結果だけが欲しかったんだよ」

正義と幸福は直結するのか―あらゆる人が共有するしうる客観的正しさは
確かに存在し、それこそが絶対的な価値を有する。天秤座的価値観です。
論理によって組み上げられ、生きる人は確たる理論により判断、あるいは裁かれる。

『あなたが思い浮かべる「幸せ」とは、何人の人が登場する?
 自分だけ? 友達や恋人? ぐっと大きく人類全体?
 登場人物が多いほど、広い世界で生きていて、
 多くの人を幸せにできる可能性が高いということ』

とらばーゆの占いで出てきたフレーズ…手帳へ書き写したのですが、
いつも書き写す時の基準である“これは素晴らしい”と賛同したのとは、
ちょっと意味が違う感じで書き留めたのです。理想へ突き進めば、
必然的に薄まっていくものがあり…たとえば、「るろ剣」の剣心は
この目に映る範囲のものだけ護れれば、という信念に自らを書き換えています。

正義とは私情。幸福と同様に、各個人で全く定義が異なるもの。
だから、「全ての人を幸せにすることはできない」し、
「全ての人が賛美する正義もない」のです。そう割り切った方が楽なのです。

なのに、全ての人を幸せに…と願って、より多くの人を幸せにするために
人ではなく理想を、正義をチョイスして、多数を守るために少数を切り捨てる
父親と同じ人生をたどってしまったのが傭兵エミヤだったのです。
待ち受けるのは、必然的に破綻のみ。

Fate界では神話でみんなが知ってるサーヴァントたちに並んで「正義の味方」がいて、
それくらい人々にとって必要とされている概念なのかと思わせておいて、
実は「月光仮面」が第1号だったという、吸血鬼よりも新しい言葉だったりします。
#「正義」ではなくて、あくまで「正義の味方」なのがミソ。

なんだかまとまらない日記になってますが(いつもそうですけど)
手に取るか迷った場合は、このセリフに対して、どんな気分を抱くかを参考にどうぞ。

「正義の味方の目に、仕方のないものなど存在しない。
 世界には、仕方のないことなんてないんだ。
 仕方がない、それで終わらせてはいけない。
 どんな悪にだって、対応の仕方と言うものはある。必ずある」

入部してどうしたらいいか戸惑う主人公へ、正義の味方の目、で全てを見ろと
正義の味方研究部長が諭す言葉です。どちらかと言えば、この発言に対して
「え?」と首をひねる人の方が、この小説には向いていると思われます。

ま、正義がどうだとか小難しく考えなくても、こんな大学時代ってあったよね…と
明るく振り返れる青春モノでもあります。……エンディング以外はね(苦笑)


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