Land of Riches


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 2004年10月07日(木)   DREAMSEEKER 

大学に入った当初、将来の夢はサッカー記者になると公言して雑誌に載ったことがある。
そして、真似事というには本格的過ぎる真似事で、サッカー実戦経験のない自分が
勝ったときも負けた時も優勝寸前の選手も二部落ち逼迫の選手も私情を挟まず、
業界人として見、あるいは聞く…そして私の唯一の自信である文章の形へする、
こういう仕事はライターという、そして私は何人かに取材する時点で完全に
自信と…違う、勇気と向上心を萎えさせてしまった。幸か不幸か、情報発信者というか
文章を書き、多くの人に読んでもらうすべとして、何の制約もかからない
インターネットという媒体が存在している時代に私は生まれてきたのだ。

私が初めて取材をしたサッカー選手は、外池さんです。

先月、子供の頃から一番憧れていた会社の求人を見て、応募しようと思ったのだけれど、
精神的不安定もあって自己PR1枚がまとめられず、結局応募せずに終わっている。
あの企業はネバーギブアップ制度があるから、それこそ、本気なら、何回でも何回でも
応募可能だし、向こうもそういう人材を待っている…だが、今の私は、残念ながら
自分の命を維持する「生命維持装置」を確保するお金を稼ぐことに全力を注がなければならない。

好きなものは好きと、緑の葉の美しさを綴るゆとりを奪われてまでお金は欲しくない。
自分の心情がどうやって“揺れる”かを書き楽しむのが趣味なのだから。
それこそ、石の翼を背に生やした悪魔の美青年が青いユニフォームを着て…の世界。

フットボールは、シビアで、リアリスティックだけど、私はそこに生きる、
選手あるいはスタッフなど、それぞれの人としての誰にもかえがたい価値を信じたい。
あの選手はうまくて、あの選手はヘタ。後者の選手には価値がないのか?
プロサッカーにまでのぼりつめた理由は必ずあるはず、それは何?

だーかーら Lefty in the Right と叫び続けるんです。

明日は無機的で大嫌いな街へ行ってくるよ。

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天罰なのか、私は動的外部記憶装置に補完してあった全ての動画情報を喪失しました。
といっても、中に入っていたのはごく一部のアニメを除けばレイソルばかりですが…。

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また駅のホームで倒れました。どんな経験でも糧になるんでしょうか、今回は意識も
刹那しか揺るがなかったし、“最終的に”どうなるかも分かっていたので、
体はともかく心は冷静でした―ただ、駅員さんが来てくれるまですぐ横にいて
心配してくれたお兄さんが交わしていた会話の一片「こういう時、無力ですよね」が
キュンと胸に染みて、申し訳なくなりました。前回の都内某駅とは、そうやって
体調を崩す人の数も違うのでしょう、ぎこちない応対で駅長室片隅の長椅子
(さして身長があるわけでもない私の体ですら窮屈で収まらない横幅の物)へ
横になっても頭痛と手足の痺れが取れない私は、やはり救急車の中の人に。

一番近い病院は精神科がないと一蹴され、二番目に近い病院へ。対応してくれた先生
(多分、内科医師)は主訴を聞くと脳外科へ私を回し、「さあオペだ」と言って
救急診療室から去っていきました。脳のCTスキャンを取られ、何一つ異常のないという
画像を見せられながら、ストレスがたまっていたか、薬の副作用ぐらいしか
思いつかないと憮然そうに説明する脳外科の先生。結局、一切の処置はなく
きゅうきゅうとベッドの並べられた部屋で休むことに。隣から聞こえてくる
老婆の不規則な息遣いと、幼稚園の頃、1ヶ月休まずに通うともらえる金シールに
半端でない憧れを抱いていた体はもう癒えないだろうか、このままだと親に
実家へ連れ戻されるのではないか…そんな憂鬱が脳裏をよぎって、休めもしません。

程々にして立ちあがる私。本当は今日、午前、面接へ行くはずだったのです。
詫びを入れると、午後からでもいいから来てほしいと言われ、やりたい系統の仕事だったので
面接地の幕張へ向かうのでした。いや、そもそも、その全く知らない病院から
駅へたどり着くのも一苦労だったのですが…やっとたどり着いた海浜幕張駅は、
幕張メッセで行われているイベントのため、階段も下りられない大混雑。

靴底から伝わってくる地面の感触は、必ずしも自然なものではない…わざわざ
足の裏の感覚が刺激されてしまう程度には不自然で、でもそれはここ数日続いていたことで。
日本で今までに行ったどこよりも人工的な景観が苦手だった幕張は、しかし、
テクノガーデン1Fという絶好(?)のロケーションだった丸善が、いくら品揃えが
堅かったとはいえ9月いっぱいで閉店になっているのを見かけ、この街もまた、
人が築き人が営む地、ただその歴史が浅いだけ、と思い直しました。

面接では咄嗟には答え辛い質問をされると予備知識をもらい、準備もそれなりに
していたつもりでしたが、予想を超えた質問をされました。今回はこれ。
「どんな職業でも就けると言われたら、何になりますか?」
少し間を置いて私の口から飛び出したのは「サッカーライターです」という回答でした。

それは嫌だと思ったばかりの仕事、だって永田が好きだと書くのと永田は何か
(どんな選手か)を書くのは違う、戦評は感想文ではない…私が書きたいのは。

だけど、書きたい―今回の仕事をどうしてもやりたかったのは、それが書く仕事だったから。

“貧血”で倒れて面接すっぽかしただけでも採用の可能性は相当に低い、だけど
私はライティングをやりたかった、人に何かを伝える仕事、その文を紡ぐ職業。

クリアにはならない頭を引きずりながら、私はレイソルロードを歩いていました。
開始には間に合わない、後半からだって怪しい、でも、私は、“何か”―黄色い旗が
揺れる道の先にある場所にふらふらと引き寄せられている、自ら欲して。

この道を歩くのが嫌になる日は来るだろうか?

その可能性を想像するのは結構、簡単だったりします。自然と熱が冷めて
距離のできたチームもあるけれど、私は、今までに、意図的に見るのをやめようとして
どうにかやめたチームがあるのです。その理由や過程はどうであれ。

野球場―そこを駆ける黄色のウェアが見えた時、唐突に、ロス五輪の時、
父親か当時の担任の教師(この曖昧さはなんだ…)が、人生でオリンピックを
見られる回数は限られている、と言っていたのを思い出しました。サッカーも同じ。
 #ロサンゼルスの前のモスクワは、日本ボイコットだったための発言と思われる。

最近、割と頻繁に思うんです―人生で一体何試合観戦できるだろう。無論、それは
数が多ければいいとか自慢できるものじゃないはず。試合はそれぞれ密度というか
満足感が違います。可能性へ(私の場合)“時には”お金を払うのであって、
その値段は需要と供給のバランスから生まれたものか、ちょっと怪しい、
後払いではなくて先払い(映画とかも同じかな…でも映画は何度上映されても同じ質か)。

ボールを蹴る人と、それを見ている人。見ているのは観客だけでなく、
両チームのコーチングスタッフ、そして“試合に出ていない選手”もです。
出ていない理由は“出なくてもいいから”ですが、免除と不要では意味が違います。

プロと大学生(スケジュール発表の時点では高校生だったんですが…)。
どっちがどっちだろう。誰が出ているか―好きな選手が出ているのに、
それを目で追いかけないという贅沢。別名・逃げ。私はピッチサイドで
試合と関係なく黙々とサーキット系のトレーニングをする菅沼さんを見てました。
たまにピッチの中へ目をやる―私よりも稀に、菅沼さんも、中を見る。

出られない。出番がない。昨日の午後練習にもいなかったというし…。

昨日の午前練習前に、選手全員へ紹介されていた練習生とおぼしき選手の名を
知ろうと奔走して終わりました。試合が終わってからの、未出場組による
シュート練習(監督も見てます)は見ていられませんでした、それもあって。

「かっこいい人がいた!」の嬌声。思うがままに蹴り思うがままに喋る17歳の少年。
キミがいることでどれだけ救われているかと思う。だって、好きな選手が
サッカーをやって…試合に出ている姿を見て、ツライだなんて、どっかおかしいから。

貴章さん…トークショーに行く勇気がないよ…なんて贅沢なんだろう…。

久しぶりにレイソルロードのたこ焼き屋に寄りました。チーズ入りが好きなので、
時間がかかるのですが、かなり長い沈黙を経た後で、地震の話を振られました。
震度4。お店の方は地震が苦手みたいですが、私はDVDレコーダの中身を飛ばしただけ。

消えたのはレイソルの今年の試合―別に消えても良かったと“強がる”私に、
急にレイソルトークを振ってくるお店の方。いい選手が揃っていると思うのに、
どうして勝てないんだろう、試合を見ていると、ぶちっぶちっと細かく
途切れちゃってる気がするのよね―やっぱり若いチームだから、1点取られると
がくっとなっちゃうんじゃないですか、と私。彼らのことを若いと定義づける私、
でも本当は自分自身も失点するとショックから立ち直れなくなる臆病者なのも知ってる。

何がきっかけだったのか、こう言われて、こう返しました。
「玉田が好きなんだ?」―「はい。でも一番好きなのは永田さんです」
店の片隅に貼られた、4月のカレンダー…へんてこな金髪の永田さんを眺めながら。

移籍が多くて選手の名前が覚えられないという、でもレイソルが勝って、
街がもっと盛り上がるといい、そう心底願っている…その気持ちの真摯さは、
話へのめりこむあまり、チーズ+マヨネーズのたこ焼きがいつにも増して
大きなものになっていたのでも良く分かりました。美味しかったです。

私はレイソルが好きだ。好きだから、レイソルは私の好きなものであってほしい。
好きな対象以外のもの・相手にはしたくない。…じゃあ、私はどうしたいんだ?

予約より1時間遅れたのに、すぐ診察室へ通されました。あれこれと報告した末、
ふと「前回の診察はいつでしたっけ?」と尋ねました。よぎったのは誕生日の悪夢。
違う、悪夢に苛まれた誕生日。「9月の終わり…30日」と先生。やっぱり!

Land of Richesはサッカーダイアリーじゃない。これは、名古屋時代に、
日記をつけて吐き出せと言われたから始めたもの。それまで、私はずっと
web日記には否定的だった―どうして個人的な愚痴を不特定多数の目にさらすのが前提の
ネットになど載せるのか、と。心理状態の記録だから、趣味のサッカーに関する
話題が多いだけで、これは治療記録でもある、だからサイトからリンクも貼ってないし
「日記」と呼ぶことさえしない…なのに、何やってんだ私? 何忘れてんの?

テトラミド10mg錠―全てはそれを飲み始めた夜(前回診察後)から始まっている。

速攻で廃棄決定。ついでにマイスリーにはやっぱり5mg錠が存在するのを知りました。
代わりの精神安定剤はワイパックス。逆戻り。しかし薬剤師いわく、こちらの方が
効き目が鈍いから、何日かは飲んでも効果を感じないかもしれないが、地道に続けて、と。

その薬剤師さんは、いつもの人じゃなくて、その人に指導を受けている新人ぽい方で、
開口一番「前回と同じ処方ですね」と当のテトラミドを出そうとしていたから
恐ろしいったらありゃしない―これが命に関わる薬だったらどうすんだ?!
私の、たかが安定剤だから、しかもお互い気がついたから良かったけど。

テトラミド10mgは、私が今まで飲んできた薬の中では、本当に小さい部類の
錠剤で…こんな小さな薬でボロボロになるんだから、人間の肉体って、
なんて単純でなんて複雑なんだろうと思いました。そう考えたら、ドーピングは
ものすごく難しい領域なのも実感できました。魂なんて、やっぱりないのかもしれない。

他人事(=サッカー)の勝敗でも天国と地獄を味わえるし、人間は、単純だから。
でも、その単純さから無限の喜怒哀楽を取り出せる精密な生き物でもあります。

不安を取り除いたら、何も残らなくなってしまったような感覚だった、でも違う、
私は、痛む頭でもこれだけ考えることができた―良かった、私はまだ生きてる。

同じ時代に生まれて、同じ場所で同じ時間を過ごせる幸福に、限りない感謝を。 


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