Land of Riches


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 2004年09月08日(水)   Sleeping Lion Heart 

ぽてぽてぽて。
野球場の片隅で、足の長さとさしてサイズの変わらない銀色のボールを、
幼稚園ぐらいの男の子が楽しそうに追い掛け回していました。

ぼこっ。
さっきまでサッカー場のスタンドで聞いていたものとは全然違う音がして、
ボールが男の子の足を離れました。
「危ないっ」
ボールは、芝の上をハイハイしている子に当たるかと思いきや、
お母さんの心配ははずれ、そのすぐ後ろでぽよんとはねたのでした。

他にも、何人もの小さな子がボールを追いかけてみました。
水曜日だから、スクールのキッズクラスの子でしょうか。
そんな人ごみの中を、黄色いレイソルのウェアをまとった、
ちょっと大きなお兄ちゃんが悠然と抜けていきます。

エリート。
人工芝のあたりですれ違うたびに感じるのです。
この黄色い服は、学年が下であればあるほど、選ばれし者の証、誇りなのだと。

小さな男の子たちは、夢中になってちょっと汚れたボールを追いかけています。
青い服を着た子も、何人かいます。
肩から肩の間では収まらず、腕にまでかかった名前。
“大きすぎて”左右や下は背中からはみ出してしまっている背番号。

TAMADA。
それはレイソルのエースアタッカーがフル代表でつけている番号、20番。
とてとてとて。
みんな楽しそうです。

「玉田選手、好き?」と聞いたら、「すき!」と答えるんでしょうか。
「玉田選手ってかっこいい?」と尋ねたら、「かっこいい!」と答えるんでしょうか。

サッカーって楽しいですか?―玉田さんはためらいなく答えそうです。
楽しい、って。
ロナウドやモリエンテスをすごいすごいと褒めちぎり、
オーウェンと交換したユニフォームを自慢げに着る24歳は、
小さな男の子達と、そんなに違っては見えません。

ウレシイ、タノシイ、クヤシイ、ウレシイ、タノシイ、クヤシイ、ウレシイ、タノシイ。
その繰り返し。

玉田さん、今、サッカー、楽しいのかな?



…ちょっとかっこつけて書いてみました。調子乗りすぎです自分。
まあ、野球場の隣を歩きながら思ったことではあるんですが。

なんでそんなことを思うかといえば、サテライトの練習試合が全然面白くなかったから。
面白くない、と書くと、ふてくされてるみたいですが、それも通り越して
胸が痛くなりました。内容がしょぼいから苛立つのとも違う、何もないから
心も波立たない、ただ強風で日立台のスタンドがガタガタ揺れているだけ。

日陰だから(2時開始と知った時点で、嫌な予感はしてたけど、やっぱり今の私には
日差しを浴びながら歩くことはドラキュラのごとく辛いです。だから国体なんて…)
本を読んだり、お昼寝したり、お弁当を食べたら、気持ちいいかもしれない、とは思ってました。

変な布陣。選手が持てる力を全て出せるようには見えないフォーメーション。
でも、サテライトの、それも練習試合なのだから、意図してそうされているのだろうし、
むしろ選手には、違うポジションでも…というのを見せてもらいたいところです。

でも…やっぱり違う。2列目から飛び出していく望さん―ボランチが田ノ上さん、
ボールが落ち着く場所がないからサイドアタックもポストプレーも何もあったもんじゃない、
バックスはスピードに対処できず大沢朋也さんに抜かれまくり、でも怒れないのは、
なんだかほとんど予測の範囲内のようで、本当はそれをいい意味で裏切りプレーを
待ち望まなければならないでしょうに、私はただ、聡太さんが左腕をつけずにいて、
それで変な体勢で倒れたのにヒヤヒヤしたり…その聡太さんが、分かりやすい失点で
一気に声がでなくなってしまったのにしょんぼりしたりするしかなかったんです。

サカダイで、増嶋さんが、クラブに必要とされない苦しみを語っていましたが、
サテライトの練習試合で、力を出せないシチュエーションを強いられるのは、
選手にとって辛いのだろうか、と考えました―祐三さんは新潟から帰ってくると聞きます。
彼は前々から代表との兼ね合いでクラブへ中途半端にしかいられないのを
嘆いているように見える節がありますけど、代表にも、レイソルにも、
必要とされて強行スケジュールを余儀なくされている祐三さんって、
それはそれですごい幸せなんじゃないかとも感じました。今頃…かもしれませんが。

ハーフタイム、大谷さんと貴章さんと菅沼さんがボールを蹴っていました。
しかし、大谷さんと貴章さんは後半頭から出場となったようで、ロッカーへ消え、
ピッチでは菅沼さんがスタッフと二人でシュート練習していました。

枠になかなか飛ばないショット―結局、トップ下(この使われ方はチームメイトにも
意外だったようで、聡太さんなんか大声で「ミノル、トップ下? トップ下?!」と
確認してましたもの)で途中から出場して、持ち味を出せずに終わった菅沼さん。
ハーフタイムからは特に胸が締め付けられてました。貴章さんも迷ってるのがありあり。

追い詰められて…一番追い詰められているのは、レイソルというチーム。

Jリーガーにもなる人で、サッカーが好きじゃない、なんて人はいないと思います。

だけど、なかなか勝てないチームのユニフォームを着て、
なかなか勝てないチームの試合にも出られなくて、
自分の持ち場と考えているポジションにも立てなくて、
それでも、なお、サッカーが好きで、自分を信じて、
レイソルに誇りを持つって、そんな生易しいことじゃないんじゃ、って思ったんです。

小さい頃は、みんなサッカーが好きで、楽しくて、悔しいこともあっただろうけど、
仕事ともなった今、サッカーが全てで、サッカーから逃げることはできなくて、
何があっても、サッカーするしかない―どんな枷をはめられようとも。

悔しさが力になるなら、構わないのだけれど、焦りに変わったら、
それは、体を縛る鎖にしかならない、こんなはずじゃなかった、って。

それでも、自分を信じて、チームメイトを信じて、チームを愛せるかって。

サッカー楽しいかなって。

見ている私も、つまらないだの、退屈だのって片付けて終わっていいのかなって。

ぽてぽてぽて、とボールの後ろを走る幼稚園児たちを見て、思ったんです。

「アルゼンチンとは、ベストコンディションの時にもう一度やりたいです。
頭の上から押さえられたりして封じられたけど、そういうのに挑戦するのは大好きなので
緑ヶ丘の横断歩道を渡りながら、ぼんやりと浮かんだのは、玉田さんのこの言葉でした。

改めて、強い人―強いからこそ、今の玉田さんがいるんだと思いました。


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