anxious for Heaven

鳥かごなんて、最初からなかった。

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2015年02月10日(火) いずれやってくる日
『胃ガンが見つかったで〜』
と、突然の電話が。

電話口の声は、相変わらず軽い感じだったけども。
『お父さん、Kyoちゃんと電話してる時、涙ぐんでたよ』
とのことで。

まあ、私の親だから。
ガンでした、ガーン(笑)なんて笑い話にしながらも、絶対に落ち込んでいると思う。
でも、それを表に出すのはキャラじゃない!とか言って、無理してるんでしょう、と。

複雑な家庭事情があるため、詳しくは説明出来ないんだけど、そばについていてくれる人(Iさん)から聞いた話は、ずいぶん悪い。

胃ガン。
食道までガン細胞がある状態。
はっきりとは言われなかったけど、腸を触りながら『しこりがあるな…』と先生の呟き。
足も腰も痛いのは、転移してる可能性がある、と。
これ以上検査しようにも、体力低下が著しくて、検査できない。
当然手術も。
なので、ひとまず入院して、点滴や経腸栄養で、体力&体重を戻してから。

……うーん、ほぼ末期じゃないですかね、これ。
70kgくらいはあった体重が、今は52kgしかない、と。
175cmくらいあるのに、骨と皮やないですか……。

Iさんとも電話したけれど、涙声で『絶対に死なせへんから!』って。
『今後どうするかとか、実子のKyoちゃんと相談しながら決めていきたい』って。

とりあえず、来週末そっちに行きますね、という話をした。


聞いていた冬寿は、静かに泣いていた。
ありがとう、父の娘として、それほど思っていてくれるのは、嬉しい。
義理の父と息子。
そして一時は、会社の上司。
それでもこのふたり、仲は凄く良かったから。
父が冬寿をいじる。皆で笑う。
夜は男ふたりで、ラーメン食べてくるね〜と外に出る。
冬寿に食わせたれや!と、美味しいお肉を差し入れしてくれる。
……どっちが実子やねん!とツッコミたくなるくらい、仲が良かった。
相談もたくさんしていた。
ODで私が意識不明の時、揃って駆けつけてくれた。
父のおかげで、転職への道だって開けた。

たくさん、してもらった。
まだ全然返せてない…。

そう言って泣く冬寿に、私は深く頭を下げた。
ありがとう、と。


実子の私は、こういう時に泣けないんです。
だから、冷たく見えるんだと思う。
淡々と受け入れて、事務的な心配をして、お見舞い日程を決めて、連絡をさばいて。

でも。
ショックじゃないはずがない。
小さい頃はパパっ子だった。
離婚騒動で私に課せられた役割故に、今も負い目だってある。
結婚し、引っ越しし、同じ首都圏に来て。
それまでの20数年間より、ここ10年の方が、一緒にいたと思う。
一番『親子』な時間を過ごした。
顔だってよく言われる、父に瓜二つだねって。
私の性格の半分だって、間違いなく父親譲りだ。

ショックじゃないはずがない。
ただ、いつもそうであるように、心の一部を切り離して、自分の心を守っているだけ。

だって、私が一番、しっかりしなくちゃいけないんだもの。


いつかくる日、だとは思っていたし、それがこんなに早いとは思わなかったけど、覚悟だって着々と積み上げてきた。
だから、私は、泣かない。
泣くのはもっと、後。
どんな意味であっても、『全部が終わってから』。
それまでは。
父の愛する『すっとぼけてアホなことばかりしている、聡明な娘(すごい矛盾だけど)』でいる。
『ガーン!のギャグは私が使う予定だったのに、先越された!(笑)』なんて言っちゃう娘でいる。
私が泣いたら、父が心配するでしょ。父自身の不安も増すでしょ。
だから。
私は、私のままでいる。
余計な心配なんかかけさせない。

少しでもたくさん、笑って、懐かしい話もして、それでちゃんと『ありがとね』を伝えて。
出来ることは少ししかないけど、それでも、悔いのないようにやり通して。
もし『その日』が来たら、私だけは笑ってお疲れ様を伝えてあげたい。


泣くのはそれからだ。

一緒にいられると思ったのは
たぶん、間違いじゃない。
written by:Kyo Sasaki
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