anxious for Heaven

鳥かごなんて、最初からなかった。

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2004年10月19日(火) 「フランシス」
別に変わった集まり、だったわけではない。
友人とその友人が集まって酒を飲む、それだけのことだった。
程よく酒が回り、全員がふらふらになり
別の店に梯子して飲み直す奴もあり
明日は仕事だからと口にして帰路に着く奴もあり。

気が付いたら
その店には僕と彼女しかいなかった。

彼女とは当日まで何の面識もなく
話に聞いたことすらなかった。
印象だって強かったわけじゃない。
むしろ、何の印象も持てないほど、薄い存在だった。

何故、そんな彼女とグラスを並べているのだろう。

トマトジュースが主食なの、と笑った彼女のグラスには
セロリを刺したストローハットがまだ半分ほど残っている。
その赤色に負けず劣らず、頬も赤く染まっている。

決して、美人ではない。
どう贔屓目に見ても、中の中以上には見えない。
ただ、どことなく人懐こく、笑顔に愛嬌があるな、と思った。
…ただ単に、酔いがそうさせているのかもしれないが。

 明日も仕事なんじゃないの?

 「ううん、明日は休み」

 何の仕事をしてるんだっけ?

 「それは内緒」

 君のこと何も知らないんだけどさ。

 「謎の女ってことで、素敵じゃない」

 …そうかな。

 「この後、どうしようね?終電、もうすぐなんだけど」

 …女からそれを尋ねてくるのって、アリなのか?

 「最近じゃ普通でしょ、きっと」

 こういう時、気の聞いた台詞のひとつでも言えたらいいんだけどさ。

 「とりあえず、出よう?」

 どこに連れて行くかわからないよ?

 「任せる」

彼女の肩を抱いて、店の出口をくぐりながら
何気なく後ろを振り向くと
照明のあまりあたらない壁の一角に
なぜかこんな格言が張ってあるのが目に入った。

 ある本はその味を試み
 ある本は飲み込み
 少数のある本はよく噛んで消化すべきである

つられて振り向いた彼女が
悪戯っぽく笑った。

 「私はどれにあたるのかしらね?」



遅くなってすみませんでした。
タイトルは
「only you can rock me」の五十嵐薫さんから頂きました。

一緒にいられると思ったのは
たぶん、間違いじゃない。
written by:Kyo Sasaki
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