橋本裕の日記
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2008年03月05日(水) 散歩の向精神効果

 三月になってめっきり春らしい日差しになった。しかし、風はまだ冷たい。木曽川の堤防を散歩していると、今ごろのひんやりした風が、汗ばんだ肌にちょうどよい。

昨日は伊吹山がよく見えた。白い山を眺めながら、風に吹かれて歩いていると、さわやかな気分になる。なんだか大自然の中で自分の存在がとても小さく感じられる。そして心の底から、「生きているのは素晴らしい」と思う。

 散歩は私にとって一種の向精神薬である。実際の薬は麻薬の一種で、脳内にドーパミンなどの快感物質や同じく神経伝達物質のセロトニンが分泌されて、一時的に爽快になり、意欲的になる。場合によっては意識がすっ飛んで、すっかりハイになることもある。

 しかし、こうした向精神薬に比べて、散歩は副作用もなくてはるかに健康的である。たとえやみつきになっても、これもちょうどよい運動になって、健康な肉体を維持するにはかえってよい。いつでも好きなときに、ぶらりと出かけて、風景を眺め、風に吹かれて帰って来る。だから必要なのは二本の足と、ちょっとしたヒマである。お金はいらない。

さて、昨日の日記で、イギリスの自殺率が先進国の中で少ないと書いたが、もう少し知りたくなって、厚生労働省のHPにアクセスしてみた。そこにはこう書かれている。

<諸外国の自殺死亡率(人口10万対)をみると、男では、高い国は「ロシア」70.6、「ハンガリー」51.5、「日本」36.5となっており、低い国は、「イタリア」11.1、「イギリス」11.8、「アメリカ」17.6となっている。

 女では、高い国は「ハンガリー」15.4、「日本」14.1、「ロシア」11.9となっており、低い国は、「イギリス」3.3、「イタリア」3.4、「アメリカ」4.1となっている。

 これを年齢階級別にみると、男では、「日本」は「55〜64歳」が最も高くなっているのに対し、「日本」より高率な「ロシア」は「45〜54歳」が最も高く、「ハンガリー」は「75歳以上」が最も高くなっている。なお、「ロシア」「ハンガリー」は全年齢階級で「日本」を上回っている。

 女では、「ロシア」「日本」は年齢階級が高くなるにしたがって高率となる傾向となっているのに対し、「ハンガリー」は「45〜54歳」で山を形成している>

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/11.html

 日本の自殺率はアメリカの約2倍、イギリスの約3倍もある。これをどうにかしようという機運がわが国では盛り上がらなかった。政府はようやく2006年になって「自殺対策基本法」、2007年に「自殺総合対策大綱」を策定し、おそまきながら対策にのりだそうとしている。

日本の場合、自殺率と失業率との相関が高いといわれる。「自殺対策基本法」にも「自殺は、個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、総合的な対策を早急に確立すべき」と書かれている。

自殺率は鬱病との相関も高い。薬物治療に頼るだけではなく、鬱病を作り出している社会的背景にも目を向けていかなければならない。欝を社会の病理としてとらえ、これをどう社会的政策によって克服していくのか、これからの大きな政治的課題になるだろう。

しかし、これはなかなか気の長い話になりそうだ。そこでとりあえずは自分の身は自分で守るという観点から、個人で自殺対策プログラムを立ち上げる必要がある。私のおすすめは「散歩」である。重症の欝の場合は薬物も必要だろうが、その場合でも薬物だけにたよらず、こころのリハビリとして散歩を取り入れてみてはどうだろう。

私は自殺の大きな原因として、社会的連帯感の喪失があるのではないかと思っている。これから社会はますます格差が広がり、住みにくい世の中になりそうだ。そうした中で、どうしても人は他者との絆を失い、孤独になりがちである。そうしたなかで、自己の殻に閉じこもらずに、人や自然とのふれあいを求めて、気晴らしに外へ出かけてはどうだろう。

気のあう友人と映画を見たり、旅行をしたりする。社会的な問題に関心を持って、何かのボランティア活動に参加するのもよい。何でもよいから、こころが軽くなり、気持が晴れそうなことをする。そして適当な距離をおいて自分や他人を眺めるユーモアやコメディ精神を身につけ、自分を笑い飛ばせるようになればしめたものである。


橋本裕 |MAILHomePage

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