橋本裕の日記
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2007年06月05日(火) 憧れのスローライフ

 今年の4月に、前の高校で同僚だった数学科のT先生から、「3月に退職しました」という葉書をもらった。在職29年だという。まだ定年まで5年以上残している。T先生はいつも物静かで、それでいて、教科指導であれ、部活であれ、クラス運営、学年運営、どれをとっても誠実に仕事に向かい合っていた。

 前任校で7年間一緒だったが、一度も愚痴や泣き言を聞いたことがない。率先して難しい仕事も請け負い、精力的にこなしていた。いわば教師の鑑のような存在である。そんな彼が早期退職すると聞いて驚いた。

 私は前任校の頃から「退職して世界放浪したい」が口癖だった。そんな私をさしおいての早期退職である。私の心中がおだやかであるはずはない。T先生も気が引けるのか「おさきに失礼します」と書き添えていた。それにしても、どうして彼が私よりも先にやめなければならないのか。

 私のようなやくざな教師が辞めることは教育界にとって歓迎すべきことだろうが、彼のような優秀な教師を失うことは、大いなる損失である。しかし、彼は彼なりに考えるところがあったのだろう。葉書には「これからスローライフを楽しみたいと思います」とある。これで少し謎はとけた。

 これまでの蓄えや、株式の運用などによるたくわえはあるのだろうが、それでも教師を辞めれば収入は減る。年金生活までには10年以上あるので、倹約をよぎなくされるだろう。しかし、その分、時間にゆとりが生まれる。じぶんの好きなことを、ゆっくり腰を落ち着けてできるわけだ。

 最近、私の周りで教師を辞めてこういうスローライフを楽しむ友人がふえている。昨年は大学時代からの友人で、やはり愛知県で数学の高校教師をしていたS先生が、定年まで4年を残して教職を去っている。彼はいま中国の大学に留学して、中国語や中国美術を勉強している。こういう実例がたくさんあるので、私の心がゆれうごく。

 多くの有為なベテラン教師が定年前の退職を希望し、実行しているのは、それだけ教職に魅力が感じられなくなったせいだろう。最近の教育再生会議のピンとはずれの提言など見ていると、私も絶望的な気分になる。もし、定時制高校に転勤していなかったら、たぶん私も今年あたり重大な決断をしていただろう。

(今日の一首)

 遠くよりわれを呼ぶ声ひとりいて
 こころ澄ませば星のささやき


橋本裕 |MAILHomePage

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