橋本裕の日記
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これは妻から聞いた話だ。面白いので日記で紹介しよう。妻が毎日通っている近所の畑に、モズが夫婦でやってくる。お目当てはミミズである。野菜作りをしていて、畑を掘り返すとミミズがでてくる。それをモズが目ざとく見つけて、すばやく妻の手元から奪っていく。まさに目にもとまらぬ早業である。
奪っていくのはいつもからだの少し大きいオスの方である。彼はすぐ近くの枝先まできて、熱心に妻の仕事ぶりを見詰めている。これにたいして、メスのほうはもう少し離れた枝先に止まって様子を見ている。
オスはミミズをくわえると、近くの枝先に戻る。すると、メスがピー、ピーと猛烈に鳴き始める。羽を震わせて必死にオスに声をかける。オスはミミズをくわえたまま、横目でうらめしそうにメスをみる。メスはますます必死である。
「なにをもたもたしているの。はやくミミズをよこしなさい」 「僕が苦労してとったんだぜ。僕が食べるのが順番だろう」 「駄目。まず、私から食べるのよ」 「あとで持っていくからさ」 「そんな薄情者だったの。もう絶交よ」 「わかったよ、今もって行くからさ。そう怒るなよ」
こんな按配で、オスはしぶしぶ餌をメスのところにミミズを運ぶ。メスは満足そうにそれを平らげる。オスはまた近くに来て、次のミミズを狙う。そして二匹目を手に入れるのだが、同時にメスがけたたましく鳴き始める。オスはおろおろするが、やはりメスのところにミミズを持っていく。妻はこの様子を見ていて笑いが止まらなかったという。
私も様子が目に浮かぶようで笑ったが、おなじオスとして、少し複雑な思いになる。けなげなモズのオスが、自分自身の姿に重なるからだ。妻のように腹の底から笑うわけにはいかない。
ペアになる決定権はメスが握っているようだ。そこでメスの気を引こうと、早春の頃にオスは求愛のダンスを行い、けたたましく鳴く。モズを百舌鳥と書くのは、ホオジロやウグイスなど、さまざまな鳥の鳴き方をまねるためだ。オスは二枚舌ならぬ百枚舌を使う。それだけ必死である。
(今日の一首)
早春の畑でモズがミミズ捕る メスに運んでオスはおあずけ
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