橋本裕の日記
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2006年05月16日(火) |
メートル法はいかに創られたか |
ある人から、<1キロが1000メートルと教えるのに、海岸で歩いて分からせることにしようと考えているのですが、学校の先生がたはどうやって教えるのでしょうか?>というメールをもらった。そこで、距離や時間の測定がどのように行われてきたか書いてみよう。
距離を測るのに、昔の人は歩いて測った。1フィートというのは、30.5センチメートルだが、これは歩幅である。日本の1尺は30.3センチメートルだが、これも歩幅からきている。人間が考えることは、どこでも同じだ。
西洋は昔は12進法だったので、1フィートの12分の1が1インチである。インチはラテン語で12分の1を意味する。インチももともとは、男性の親指の幅に由来する身体尺であったとされている。ちなみに1インチは2.54センチだ。
歩数にこの単位(1フィート)を掛けて、おおよその距離を出すことができる。100歩で行ける距離であれば、100フィート、あるいは100尺というぐあいだ。100フィートはおよそ30メートルである。
エジプトのシエナでは夏至の真昼には太陽の光が井戸の底まで届くが,その真北に位置するアレキサンドリアでは,太陽の光は井戸の真上から7.22度ずれている。B.C.230年頃,エラトステネス(B.C275〜B.C194)は、この事実から大地は球体だと仮定し、その半径や周の長さを計算した。
その際、彼は一人の男を雇い、シエナとアレクサンドリアを歩かせて距離をはかったという。その距離はおよそ925 kmだった。エラトステネスはこれらの測定値から、地球の円周を次のように計算した。これは現在知られている地球の円周である4万キロメートルにかなり近い値である。
地球の円周=925000×360/7.22 =46100(キロメートル)
このように、長さの単位というのは、もともとは人間の手足を基準にしていた。ギリシャの哲学者プロタゴラスは、「人間は万物の尺度なり」と言ったが、長さに関しては人間の身体が基準だったわけだ。
これに対して、時間は太陽や月の運行が基準になっていた。長さについても、人間中心ではなく、自然を基準にしたほうが合理的だという考えがでてくる。これを実行したのが、ナポレオンだった。
彼は地球の一周の1/4の1万分の1を1キロメートルと定義した。つまり地球の大きさを基準にして、長さを定義したわけだ。これだと、必然的に地球の一周は4万キロメートルということになる。しかし、地球の大きさを測るとき誤差がうまれる。そこで1799年6月22日にメートル原器なるものを作り、1メートルを定義したわけだ。
じつは、メートル原器と同時に、キログラム原器もつくられた。1kgとは「1000 cm3 の体積を占める密度最大の水の質量 」と定義された。地球を測って出したメートルと 1000 cm3 の水の重さであるキログラムは、フランスのメートル法としてやがてグローバルな標準になった。
しかし、メートル原器やキログラム原器は物質だから、変形や変質する。時間の単位も、地球の自転速度が変化すると変わる。これでは精密な測定はできない。そこで現在はメートルと秒については次のような定義を用いることにしている。
<1メートルは、1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである>
<秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍の継続時間である>
ただし、キログラムの方は、いまだに国際キログラム原器が現役で働いている。もっとも、これも塵などが付着して、重さが微妙に変化していることが予想される。質量の方もプランク定数を使ったもっと普遍的なものに変えるべきだという科学者の声がある。近いうちにキログラム原器もまた博物館入りをするだろう。
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