橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2006年04月08日(土) 前途多難な門出

 いつも出勤電車のなかで英語の文章を覚えるようにしている。そして学校につくやいなや、それを紙に書き下す。そしてスペルの違いがないかどうか点検する。まちがった単語は紙に何度も書き直す。さらに、時間をおいて帰りの電車のなかで再び文章を思い出す。こうしてとにかく丸ごと英文を暗記する。

 文章は全部で100ほどある。これをすべて覚えれば、まずは英語を話したり、書いたりするのに不自由はないはずである。しかし、私は記憶力が人並み以上に劣っている。覚えたと思っても、数日前の文章がもう思い浮かばない。

 こうした記憶障害にもめげず、去年一年間、これを根気強く続けた。現在は3周り目を学習中である。3回目になると、さすが文章は15分もあれば覚えてしまう。残りの時間は好きな読書をしている。現在読んでいるのは「湛山回想」(岩波文庫)だ。石橋湛山の自叙伝だが、これを読むと戦前の日本がわかって面白い

 昨日はこれらを中断して、クラスの23名の生徒の名前を覚えた。教室の座席を思い浮かべ、そこに坐っている人の名前を思い浮かべる。入学式のあとHRが一度あったきりなので、ほとんど顔は浮かばない。それでも名前だけは覚えた。

 昨日は5時15分から最初のSTがあった。教室に行くと、半分ほどの席しか埋まっていない。昨日あれほど「休むな」「遅刻するな」と言ったのにこの状態である。少し残念だが、それは顔に現さずに、黒板に「貴重品を持って食堂へ」と書いてから、出席している十数名の生徒たちを食堂に引率した。

 食堂の座席はクラスごとに別れている。私は去年は職員席でおかずだけを軽く食べていたが、昨日は自分のクラスの席に行って、生徒たちと時間をかけて食べた。女子は女子たちでもう仲良く食べ、賑やかにおしゃべりしている。男子はおしだまって食べている。その男子の中にはいり、周囲の何人かの男子と話をした。

「君の名前は、だしかK君だったね」
「そうだよ。もう覚えたの」
「いや、まぐれだ。適当に言ったらあたった」
「ほんとかよ」

 その生徒は二年前に中学を卒業している。いわゆる過年度卒の生徒だ。体が大柄で、性格も明るそうだ。「このクラスで誰が一番年上かな」と聞くので、生年月日を聞いて、「多分君かも知れないな。同い年の子が3人いるよ」と答えた。一応、そうしたデーターは頭に入っていた。ちなみに中学時代に登校拒否ぎみだった生徒が6名ほどいる。

 K君は最近までコンビニで働いていたという。時給を聞くと、「安いよ、760円くらい」と答えた。定時制高校に入学がきまって、勤務時間の関係で、コンビニを辞めたらしい。現在求職中だという。

 K君のとなりに坐っていたO君も負けずに体は大きかった。この子は柔道が好きらしい。無口だが性格はやさしそうで、私が話しかけると、はにかんだような微笑を浮かべていた。この子はガソリンスタンドのバイトが決まっているのだという。「時間は大丈夫か」と訊くと、「大丈夫です」という答えが返ってきた。

 このあと教室にもどり、再度出席を確認してから、貴重品を持って体育館へ行くように指示した。ところが、ひとりの女子が、「私の体育館シューズがありません」と言ってきた。昨日ロッカーに入れたのになくなっているのだという。

 そこで他のロッカーを全て空けて、そこに残っているシューズの名前をすべて確認した。そうしたら、先ほど食堂で話をしたK君のシューズがあった。出席番号がちょうど10番ちがっていたから、きっと間違って持っていったのだろう。

「今頃体育館でこまっているんじゃないかな」
「そうかな」
「そうに決まっている。K君にこれを渡して、君のを取り返してやろう」

 果たして、体育館ではK君が彼女の小さなシューズを手に持ったまま立ち往生をしていた。これで一件落着、ほっとした。再び体育館で出席を確認したが、人数が教室よりも少なくなっている。式が始まってからやってきた生徒が4,5人もいた。

 去年留年したT君とFさんも遅れてやってきた。そして傍若無人に周囲と話している。しかも式の後、教室には入らずにまたどこかへ姿を消してしまった。どうもあまり成長していないようだ。また今年も同じ事を繰り返すのだろうか。

「この4月と5月が勝負だぞ。遅刻や欠席をしないためには、お昼働くなりして、いいリズムをつくろう。いい習慣を作るのに最初は少し努力しなければならないが、それが出来てしまえば、あとは大丈夫だ」

 帰りのHRで、残っている生徒を相手にこんな話をした。人生を楽しく過ごす一番楽な方法は、「よき習慣をつくること」にある。このことをこれからも、子供たちに根気よく訴えかけていこうと思っている。

 昨日のわがクラスの出欠状況は「欠席2,遅刻8、早退2」だった。欠席した2名に電話したが、一人とは連絡がとれず、もう一人は母親に「欠席連絡をしたはずですが」と少し強く言われた。忙しさの余り失念していたらしい。


橋本裕 |MAILHomePage

My追加