橋本裕の日記
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昨年9月、デンマークの新聞「ユランズ・ポステン」が掲載したイスラーム教の預言者ムハンマド(モハメット)の風刺漫画がイスラム社会に思わぬ波紋を投げている。
欧州の新聞各社が、「報道や表現の自由」を盾に相次いで漫画掲載に踏みきったことが、さらにイスラム社会に憤激を呼び、パレスチナではガザにあるEUの事務所の前に武装ゲリラが集まり発砲さわぎがあった。
今月5日にはベイルートのデンマーク領事館が焼き討ちされている。中東の各地で欧州諸国の大使館に群衆が抗議に押しかけた。抗議の波は、イスラム圏のインドネシアなどにも広がりつつある。
このところ、イスラム社会が先鋭化している。パレスチナ評議会選挙ではハマスが圧勝した。ハマスはイスラエルの存在を認めないイスラム原理主義組織である。アメリカもイスラエルもハマスというのは「テロ組織」だと言っていた。これから対応がむつかしくなるだろう。
もっと大変なのが、イラン情勢だ。親米的だったハタミ前大統領をアメリカは支援するどころか、ブッシュはイランを、「ならず者国家」「悪の枢軸」と呼び、挑発した。この結果、イラン国民はどんどん反米的になり、とうとう去年の6月の大統領選挙では超強硬派のアフマディネジャドが大統領に就任してしまった。
フマディネジャド大統領は「ホロコーストはなかった」「イスラエルを欧州に移せ」等々、言いたい放題である。10月26日には、イスラエルは「地図上の恥ずべきシミ」「地図から抹消される」とまで言い切った。
そして、国連演説では、「先制的手段を許すことは国連と国連憲章の精神に矛盾する!」と口を極めてアメリカを罵り、中止していたウラン濃縮事業も再開すると言い出した。実際かれはこれを実行した。昨年8月8日、イランは中部イスファハンにあるウラン転換施設を再稼働させたことを発表した。
彼は核兵器を持たないために、イラクはアメリカに戦争を仕掛けられ、蹂躙されたと考えている。イラクがその轍を踏まないためには、核兵器を持つしかないという訳だ。このフマディネジャドの考え方を、かって親米的だったイラン国民までが熱狂的に支持している。
そればかりではない。1月22日になって、イラク・イスラム教シーア派の強硬派のサドルは「イランが攻撃を受ければ自ら率いるマハディ軍が支援すると表明」した。そして、イラクの多数派であるシーアー派の穏健派の間にまで反米的な雰囲気が拡がってきている。
イラクでことが起これば、石油はさらに高騰するだろう。この原油高のもとで、世界最高の利益を上げている欧米の国際石油資本や軍需産業はさらに潤うことになる。ちなみに昨年度の石油メジャーの利益は史上最高の837億ドル(9兆9千億円)だという。エクソンモービルは361億ドル(4兆2千億円)も稼ぎ出し、世界のトヨタも顔色なしである。
国家としてもっとも潤っているのは、いまや世界有数の石油輸出国になったロシアだろう。ロシアは現在イランに武器を売ることで荒稼ぎしているが、さらなる原油高は巨額のオイルマネーをもたらしてくれる。アメリカの強硬な中東政策にロシアは反対しているが、本音では喜んでいるはずだ。
辺見庸さんは、「クリントン大統領は下半身に問題があったが、ブッシュ大統領は上半身に問題を抱えている」と言っている。ブッシュのしていることは、まさに敵に塩送ることである。しかし、アメリカはこうしてイスラム社会を挑発し、火薬庫に火をつけて、火事場泥棒で儲けようとしているのだという人もいる。
狂気の沙汰としか思えないが、こうして自滅の道をたどるアメリカに忠実について行くしか能のない日本の首相も、たぶん「上半身」に問題を抱えているのではないかと疑われる。ブッシュのおかげで、世界はやっかいなことになってきた。
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