橋本裕の日記
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2002年01月22日(火) アフガン仏像が観たもの

 アフガン復興会議が昨日から、東京のホテルで開かれている。日本は最初の一年間に2億5千万ドル、アメリカは2億9600万ドルを援助するという。これにたいして、NGO活動家が「援助額の大きさを競っているかにみえる」と発言している。額も必要だが、大切なのは中身の有効性だろう。

 先週の木曜日、NHKのクローズアップ現代に「カンダハール」を製作したイランの映画監督、モフセン・マフマルバフが出演していた。彼が涙ながらに訴えるアフガンの窮状に、多くの人々は胸を打たれたのではないだろうか。あの知的で冷静な国谷裕子キスターが泣いていた。この放送を見ていた、何千、何万という日本の人たちが、おなじくテレビの前で涙を流していたのだと思う。

 映画「カンダハール」は、カナダ在住のアフガン人女性ジャーナリストが、妹を探すため危険を冒してアフガニスタン入りするというストーリーで、アフガニスタンの抑圧された女性と難民の実態を描いている。主役の女性は、実生活でもアフガン出身のカナダ在住ジャーナリストで、半分ドキュメンタリーとも言える作品だそうだ。去年5月のカンヌ国際映画祭に出品され、エキュメニック賞を受賞した。その数ヶ月後に、同時多発テロが起こり、一躍世界的に注目の的になった因縁の作品である。
 
 映画には、難民収容所や神学学校、地雷で足を失った人々に義足を支給する赤十字のセンター、元はアメリカ兵だったという黒人の医者、カンダハールの婚礼に向かう女たちの一行が描かれているという。私も是非映画館で観てみたいと思っている。

 モフセン・マフマルバフは、アッバス・キアロスタミと並んでイラン映画界を代表する監督だが、作家でもあり、去年、『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない。恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』という長いタイトルの本を書いている。彼はこの本を書くために、1万ページの資料を読み、そのエッセンスをわずか150ページに簡潔に表現したのだという。この本の出版も又、多発テロのおこる前だった。

 「このレポートを最後まで読むには、一時間ほどかかるだろう。その一時間のあいだに、アフガニスタンでは少なくとも12人の人びとが戦争や飢餓で死に、さらに60人がアフガニスタンから他の国へ難民となって出ていく。このレポートは、その死と難民の原因について述べようとするものである。この苦い題材が、あなたの心地よい生活に無関係だと思うなら、どうか読まずにいてください。」

 「私は、ヘラートの町のはずれで、2万人もの男女や子どもが、飢えで死んでいくのを目のあたりにした。彼らはもはや歩く気力もなく、皆が地面に倒れている。ただ死を待つだけだった。この大量死の原因は、アフガニスタンの最近の干魃である。同じ日に、国連の難民高等弁務官である日本女性(訳注 緒方貞子氏)もこの2万人のもとを訪れ、世界は彼らのために手を尽くすと約束した。3カ月後、イランのラジオで、この国連難民高等弁務官の日本女性が、アフガニスタン中で餓死に直面している人びとの数は1〇〇万人だと言うのを私は聞いた」

「ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人びとに対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ」

 この本に書かれているのと同じ内容のことを、モフセン・マフマルバフはテレビで語っていた。彼の肉声を聞き、翻訳された日本語を聞きながら、私もまた恥辱を覚えた。大仏が壊され、さらにアメリカで未曾有の同時多発テロおこって、はじめて私の目はアフガニスタンに向いた。

 それまでにアフガンでは何百万人もの難民が飢餓に苦しみ、地雷で手足を奪われ、両親を失った子供たちが路頭に迷い、飢えと寒さの中で衰弱死していたのである。ほとんどアフガンについて報道や情報がなかったとはいえ、自らの、想像力のない貧しい心をはずかしく思った。

 私たちの本当の敵はタリバンでもアルカイダでさえもないのだろう。それは、私たち自身の中にすんでいる「世界の虐げられた人々に対する冷酷な無関心」なのではないだろうか。

(参考サイト) 池澤夏樹「マフマルバフの映画と本」
 http://miiref00.asahi.com/national/ny/ikezawa/020119.html


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