橋本裕の日記
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2000年12月17日(日) 絶望する教師たち

 もう何年も前から学校が大変な状況になっている。それは私の同僚である北さんやとくさんのHPをみてもらえば分かる。そこの雑記帳に教育の現場で苦闘している教師の本音が書かれている。だれしも学校や自分の恥はさらしたくない。しかし、教師や父兄が実態を隠し続けていては事態が深刻化するばかりだ。

 そうしたわけで、今日は私が去年体験した「絶望体験」をありのままに書いてみよう。実は北さんを励ますつもりで、掲示板に昨日書き込んだ。しかし、字数制限で割愛した部分もあるので、原文をここに再録しておこう。

 昨年、私は自分の授業で初めて「絶望」を体験した。それは3年生の理系クラス。数学のスタディの下位クラスだが、人数は15,6名。久しぶりに数学のいい授業ができそうだとうれしくなった。ところが授業を始めてみて驚いた。

 誰一人として、私の授業を聞こうとしない

のだ。

A君、B君は一時間中おしゃべりをやめない。注意してもまったく効き目なし。他も同じ。おしゃべりをしているか、居眠りをしているか、漫画を読んでいるか、携帯電話。中でも態度が悪いのがC君で、私が誰かを注意すると

 下敷きで机をけたたましく叩き続ける。

注意しても聞かない、よけいやかましくなるだけである。

 話を聞くと、ほとんど全員が進学希望だが、数学は一年生に習った科目だけで受験するので必要ないという。というわけで、

 私の数学の授業は息抜きのおしゃべり&安眠タイム

と思っているらしい。言っても分からない生徒たちに、

 私は無力感と絶望感をかみしめながら、ただ義務感だけで

授業を進めるしかなかった。

 だれひとりとして聞く者のいない教室で、おしゃべりと居眠りと携帯の音になるべく気を取られないようにしながら、黒板に問題を書き、そして自分で解く。
こうした孤独な授業を続けながら、私の中に

 何ともやりきれない孤独感とむなしさ

が堆積していった。

 ところが、二学期になって、思いがけない救い主が現れた。K子さんが転校してきて、私のクラスに入ったのだ。彼女は実力はさほどではないが、おしゃべりもしないでまじめにノートをとる。

 クラスの中で一人だけ私の授業を聞いてくれる生徒ができた

のだ。

 しかも、彼女がただおざなりに聞いているだけではないことが分かった。ある日私はこれまでの調子でどうせだれもわかりはしないだろうと、途中の式を飛ばして解答した。すると、授業が終わると、彼女がその部分を質問しにきた。そして、「先生、途中の式もとばさないで書いて下さい」と言う。そのとき私は何か新鮮な感動を味わった。そして、

   「よし、私は彼女一人のために、理想的な授業をするぞ」

と決心した。

 卒業式の日、式が終わって、体育館を出ていく卒業生達を私も他の先生たちと一緒に並んで見送った。そのとき彼女が私の前で足を止めて、私の顔を見て
頭を下げた。

 「ありがとう」

私も思わず、つぶやいていた。そして思わず目頭が熱くなった。

 一人でも授業を聞いてくれる生徒がいる

ということはどんなにありがたいことか、そして幸せなことか、そのときしみじみと思った。




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