罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
何の前触れも無く意識が一瞬にして切り替わる。 不意打ちのように身体を乗っ取られた。 しかも、仕事中。 幸い、誰にも怪我は無い。 数秒で済んだらしく、誰も気付いた様子は無い。 ただ、廻りの状況と時計の針が、失っていた数秒を示す。
…今までは、乗っ取られるのに時間がかかって、 その間に多少抵抗らしき事は出来ていたのに。 何も出来なかった。 宣戦布告のように、圧倒的なスピードで意識を飛ばされた。 ハルシオンを飲んだ時のように、入りも抜けも素早く、 ただ記憶だけが飛んでいる。
何をしたかったんだろう。 声は、ずっと聞こえていたけど。
殺してやる壊してやるぐしゃぐしゃになるまで殴って砕いて犯して滅ぶまで呪って
数秒が数分になったなら、此処を辞めなきゃならないね。 その数分の間に僕達の身体が壊れてしまってもそれはまだ構わない。 例え憎らしい誰かであっても、本気で傷付けてしまったなら、 この身体である『彼』としても、僕としても、此処には居られないから。 それなら、傷付ける前に居なくなった方が…いいだろう?
ストレスの多い生活環境なのに、僕自身ストレスを感じない。 それが別の誰かに溜まっていて、はけ口を求め始めているのか。 泣き顔を笑顔で押し潰すたびに、子供は石を積み上げていく。 高く積み上げ過ぎたのか。 どこかに衝撃を与えてしまったのか。 石の塔が崩れて行く音が聞こえるような。
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