罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
今度、僕達が通ってる講習会の修了パーティーがある。 ウチの店の出席率は悪く、マスターから全員出席の通達があった。 そんな中、同僚は出席に対して不満げな様子。
よくサボる人である。 草野球だ、彼女だと講習会を平気でブッチする。 元々マイペースな人柄なので、いちいち期待しても居ないが。 今回の修了パーティーもかなり前からサボりたいと言っていた。 まぁ来ないだろう事も予想していたが、あまり我儘を言ってもらっても困る。 僕たちだって出たい訳じゃない。 でも金は払ってあるし、マスターの世間体ってモノも多少考慮(したくねぇ)した。
取り敢えず、一対一で説得を試みた。
『今回はマスターの顔もあるし…。出るよね?』 『…。』
やっぱり歯切れが悪い。 恒例の我儘にかなりキツイ口調になっていた、その時。
ふっと、『死ぬ』ような、『死にかけた』ようなイメージが湧いた。 そういうワードに関連する事を、こいつは隠してる、…気がした。 いつものマイペース我儘じゃないのかもしれない、 そう思ってしまったら、攻撃的な感情が萎えてしまった。
誰か、近しい人間がどうかなりかけている。なってしまった。 そこへ飛んで行きたいだろう、恐らく。 それは確かに我儘には違いないだろうけど、 僕でもそれは我儘を通させるだろう。
『…ま、いいわ。好きにしな、俺は構わないから』
いつもコイツの我儘とマイペースで迷惑を被ってる僕としては、 ここいらへんで一つ苦渋を舐めてもらおうと思ってた。 だが、なんか馬鹿らしくなった。 だから、放っておいた。 いつもと違うにしても、強情なのには変わらない。 いずれにしても出席はしないだろうな、ってのは確信に近かった。
夜、電話があった。 電話の主は珍しく、その同僚だった。 こいつから電話が掛かって来た回数は片手で足りる。 なんとなく、ウマが合わないのだろう。 何か、言い訳でもしてくれると思って電話に出た。
『…ともだちが、死んだんだ』
こいつが最初の一言を発するまで、短い沈黙があった。 気に喰わない同僚に悟られまいとしていたけど、 その声が震えているのに僕が気付かないはずは無かった。
『だから…』 『あー、もういい。後は何とかしとくから、行ってやれ』 『ごめん…』
あれが演技なら、騙された事を素直に賞賛する。 報奨としてサボる権利があっていいぐらいだ。 十中八苦、彼は僕の事が大嫌いだ。 その僕にこういう事を告げるのは、彼のプライドが許さないはずだった。 例えそれが演技であろうと、それは本気で言うのと同等の覚悟が要るくらい。 …結論として、演技では無いと判断した。 それほど彼は器用な人間じゃない。
その彼に、そこまで言わせてしまった。 それほどショックだったのかもしれない。 僕なら半日はその場から動けない。 後悔って言葉が、意味も為さないくせに鎌首をもたげていた。
僕も、キミの事は嫌いだ。 でも、ごめん。
この言葉がこんなに陳腐なんだって、今日キミに気付かされた。
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