[ 『火刑法廷』 ] 2005年10月28日(金)
ハロウィーン的怪奇趣味たっぷりのミステリと言えば
密室トリックの教祖、ディクスン・カーの作品でしょう。
『火刑法廷』は無気味なサスペンスにして本格派の推理小説、
おまけに幻想的な怪奇小説としても読めるお得なミステリ。
出版は海外本格ミステリの最も輝ける時代、1937年。
十七世紀・ルイ十四世の宮廷で最も名高い毒殺魔、
その身を火刑に処せられた、かの美貌の貴婦人が
現代に蘇るなどと言う事が現実にありうるのでしょうか。
都会の編集者である主人公は、週末を過ごす別荘の
隣人一家に降り掛かった不可解な事件に巻き込まれ、
超自然的な存在なくしては説明のつかない謎の数々を
自ら体験する事になってしまいます。
ふと彼はこの夜が四月の終りではなく、十月末の万聖節の前夜なのだという気がした──というのも、車が動きだしたとき、たしかに通りの誰かが彼の名前を呼ぶのが聞こえたからだ。
(『火刑法廷』第一部より)
アメリカ人がぞっとする雰囲気を感じるのは、
ハロウィーンの頃なわけですね。
舞台は1929年、人家の少ないフィラデルフィア郊外の古めかしい館。
火刑法廷(The burning court)は十七世紀のフランスで、
魔術的な犯罪を裁き火炙りの刑に処した法廷です。
かつて薬物を邪な目的に用いる事は魔術の一種であると
見なされたため、毒薬を使った者は火刑に処せられたのです。
薬物使いが魔女として処刑されるなら、
私や友人達は何度焚かれる事やら。
居心地のよさそうな小ぢんまりした部屋の卓上カレンダーには、赤い文字で十月三十日と出ている──翌晩が万聖節前夜ということになる。
(『火刑法廷』エピローグより)
ラストシーンはちゃんとハロウィーンの時期になってますよ。
久しぶりに読んでみると、最初のうちはなかなか読みづらい文章です。
でも文体の取っ付きの悪さとか翻訳の誤りとかそんな事は全く気にせず、中学生の私はクイーン作品に続いて、家の壁一面を埋めた細長いハヤカワ・ポケットミステリのカー作品(カーター・ディクスン名義含む)を片っ端からのめり込むように読みました。楽しかったなあ。
今、少年少女達が毎週、「まるで悪霊の呪いとしか思われない密室殺人の謎」等に対して名探偵コナン君と推理を競っているのの先祖みたいなものかな。
ところで、海外ミステリの熱烈な紹介者でもある江戸川乱歩は
カーの大ファンですが、『火刑法廷』のオチに関してだけは
あまり好みじゃなかったみたいです。
でも、今となってみればエンターテイメントとしては
カーの手法が主流かも。
さすが。(ナルシア)
『火刑法廷』著者:ジョン・ディクスン・カー/ 訳:小倉多加志 / 出版社:ハヤカワミステリ文庫1976
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