[ 満月の夜の惨劇 ] 2005年10月17日(月)
窓の外を御覧なさい。天空高く、煌煌と輝く十月の満月。
洋の東西を問わず、冴え渡る月の魔力は
美しく恐ろしい物語の数々を照らし出してきました。
今夜は日本の名作短編ホラーに登場する月をどうぞ。
それ(月)があまり明らかなので、
殆ど球状をなしているとは信じられないくらいで、
叩けばボアーンと音のしそうな、
薄っぺらな円盤か何かのような気がした。
‥‥横溝正史『かいやぐら物語』
ところが戸外へとびでたわたくしは一瞬
いすくんでしまいました。
中天にまんまるな物凄い月がかあっと輝いているのです。
わたくしはきょう迄あれほど逞しい月に出会ったことがありません。
‥‥西尾正『海蛇』
そのとき雲から月がぬけだして、ふさの顔が明るく浮き上
がって見え、正四郎は持っている盃をとり落しそうになった。
──あの晩の顔だ。
‥‥山本周五郎『あの木戸を通って』
すごいような月が真上にのぼって、広場の中は隅々まで見えるほど、
明るかった。
と、私は涸れた泉のほとりに、動くものがあるのを見た。
猫だ。
また数が増えて十匹あまりの猫が、青びかりのする毛皮をうねらせて、
泉のほとりをひっそりと歩いていた。
‥‥日影丈吉『猫の泉』
眩いほどの月の下、如何な惨劇がおきたのか、
未読の方は直に巨匠の筆になる物語をお読みになって下さい。
いずれも先日、昭和十年〜二十年代の作品を収録した第二集の出た、
本邦の「怪奇と幻想」小説の決定版アンソロジー、
『日本怪奇小説傑作集2』創元推理文庫に収録。(ナルシア)
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