「世の中は、だいたいこう動く」という再利用可能な型(モデル)がある。目の前の出来事は違っていても、その奥で働いている仕組みには共通点がある。その共通点を取り出したものが、モデルである。 大きな成果を飄々と上げ続ける人がいるけれど、彼/彼女の強みの一つは、こうしたモデルを使い、過去の学びを別の場面にも転用できるところにある。一つの経験から得た知見を、一度きりで終わらせない。
モデルの例を挙げると、たとえば複利という概念が該当するだろう。「積み上げたものが、次に得られるものをさらに大きくする」。この仕組みが働くと、最初は小さな差であっても、時間の経過とともに大きな差へと広がっていく。 これは金融だけの話ではない。知識、信用、習慣、健康、人間関係にも当てはまる。知識が増えれば、新しい知識を理解しやすくなる。信用が積み上がれば、新たな仕事や出会いにつながり、そこでの行動がさらに信用を生む。
「今やっていることは、次の成果を生む蓄積になっているか」と考えるための手がかりになる。
あるいは機会費用。「何かを選ぶということは、選ばなかった最良の選択肢を捨てること」である。 これも投資だけでなく、キャリア、会議、人付き合いなど、あらゆる場面に使える。会議に1時間を使えば、その時間を仕事や休息に充てる機会は失われる。参加する価値を正しく判断するためには、その時間を別のことに使った場合に得られた価値まで考えなければならない。
インセンティブも、汎用性の高いモデルである。「人は、何をすると得をするかによって強く動かされる」。営業、採用、組織設計、SNSなど、幅広い領域に当てはまる。 たとえば、仕事の質を求めているのに件数だけで評価すれば、人は質より件数を優先するようになる。人の行動を理解したければ、その人の性格だけを見るのではなく、何をすると報われる仕組みになっているかを見る必要がある。
他にもボトルネック、つまり「全体の成果は、出力を制限している最も強い制約によって決まる」というモデルがある。
あるいはフィードバック、「ある結果が次の原因となり、循環を自己強化または自己抑制する」というモデルもある。 前者は「どこを改善すれば全体の成果が伸びるのか」を見極めるために使える。後者は「この循環が続けば、やがて何が起こるのか」を予測するために役立つ。
良いモデルとは、一つの事例にしか使えない知識ではなく、異なる領域に何度も転用できる知識といえる。
金融で学んだことが、日々の習慣を見直すきっかけになる。組織で起きた問題から得た理解が、人付き合いにも役立つ。一つの学びが、いくつもの場面で判断を助けてくれるのである。 こうしたモデルを使いこなす人は、目の前で起きている出来事だけでなく、その出来事を生み出しているメカニズムを見ている。同じ状況に置かれても、どこに注目し、どこに手を打つべきかが変わってくる。 それは、ほとんどの人には見えていない世界を見る力と言い換えてもよいだろう。 そして、この力は、然るべき学びと実践を重ねれば、後天的に身につけられる。だから絶望する必要はない。
とはいえ、モデルの名称や定義を知っているだけでは、判断には生かせない。
「この状況には、どのモデルが使えるか」 「当てはまらない条件は何か」 「それを踏まえると、自分の選択はどう変わるか」
まで考え、実際に使ってみる必要がある。
モデルは現実の一部を抽象化したものだから、当てはめ方を誤ることもある。だからこそ、予想と結果のずれを確かめ、使い方を修正する。その繰り返しによって、知識は判断の基準、さらには習慣へと変わっていく。 必要な場面で自然に思い出し、目の前の状況に合わせて使えるところまで、自らに教育を施す。それが、モデルを身体化するということである。
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