そして彼は黙った。僕も黙っていた。蝉だけがまだ鳴いていた。俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさやつらさも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや……誰にでも失いたくないもののひとつやふたつはあるんだ。君にもね。羊をめぐる冒険