家族進化論
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2017年06月25日(日) ultimatum game 【メルマガ引用】

【丸山氏のメルマガより引用です】

【ultimatum game 最後通牒ゲーム】
今年度、高校文化祭午前の部の講師は、慶応大学の井出英策先生で
した。私は中学の会場にいたので聞くことはできなかったのですが、
井出先生の著書を読み、「世の中に分断線を引くべきではない」と
いう主張には大いに共感しています。

ところで、ultimatum game についてご存知でしょうか。
こんな話です。

太郎くんと次郎くんは互いに面識がありません。2人を前に、私は
太郎くんに言います。
「君に1000円あげよう。ただし条件がある。必ず次郎くんと分け
ること。どう分けるかは君次第だ。500円ずつに分けるもよし。君
が900円とって、次郎くんに100円渡してもよし。それぞれの取り
分を決めたら次郎くんに申し出ること。その申し出を次郎くんが受
け入れれば、君たちはそれぞれの取り分を手にすることができる。
しかし、もし次郎くんが申し出を拒否すれば、2人とも取り分ゼロ
だ。」

経済学的な観点からすれば、申し出がどうであれ次郎くんがそれを
拒否することは合理的ではありません。例え100円でも、申し出を
受け入れれば次郎くんだってお金を手にできるからです。このこと
を知る合理的な太郎くんは、したがってごくわずかな取り分(例えば
100円)を次郎くんに提示します。
結果、太郎くんは900円を手にできます。次郎くんは100円を手に
いれます。2人ともお金を手にしてハッピー(のはず)です。
果たして結果は…

"ultimatum game(最後通牒ゲーム)" と呼ばれるこの実験は、行動
経済学では大変有名な実験であるようです。
実験でわかったことは、「太郎くんが次郎くんの取り分として提示
する額が200円を下回る場合、まず間違いなく次郎くんはその申し
出を断る」ということ。
次郎くんとしては、もらえるはずのお金をあきらめてでも、太郎く
んの「貪欲なふるまい」に罰を与えたいと解釈されます。


もっとも、興味深いことに、実験に参加した多くの太郎くんが、お
そらく自分が次郎くんの立場だったら同じように振る舞うであろう
ことを予測し、次郎くんにとって極めて不公平な申し出をそもそも
しなかったようです。
実際一番多かった申し出は、「500円ずつ分けよう」だったとのこ
と。

2014年の一橋大学入試問題の英文は、2002年9月のニューヨーク
証券取引所会長兼CEOだったリチャード・グラッソ氏の辞任劇を、
"ultimatum game" を想起させる実例として挙げていました

私たちは、利益を得られないことよりも、自分が不公平な扱いをさ
れることの方がはるかに耐えがたいのです。そうすることによって
自分が何も手にできなくなるとしても、人は相手の不公平なふるま
いに罰を与えたがるのですね。英文は、私たちのこのような特性が、
結局は集団の利益を大きくする方向に作用すると結んでいます。

井出英策さんの、「世の中に分断線を引くべきではない」という主
張は、この "ultimatum game" を想起させます。
例えばある制度の適用に対する所得制限など、「結局自分は恩恵に
あずかれない(=不公平に扱われている)」という意識を生みかねない
分断線の存在は、思いのほか人々の公共心を削ぐのではないでしょ
うか。
「人々の公平感を大切にする社会政策を考えるべき」という議論に
つながっていくと理解しています。
いずれ生徒たちと考えてみたいテーマの一つです。

【教室での実験】
ところでこういう話を読むと、教室で試してみたくなりますよね。
やってみました。
小さな葉型のチョコレートが7つ入っている袋を持って、昼休みの
教室に向かいます。教卓周辺にいた6人の生徒に声をかけ、2人ず
つペアになってジャンケンをしてもらいました。

私:はい、勝った人にチョコレートをあげます。イエーイ。ただし、
条件がひとつ。この袋の中にはチョコが7つ入っているから、必ず
ペアの人と分けてね。何個ずつとるかは、じゃんけんで勝った人が
決めていいよ。

生徒:本当ですか?

私:うん、交渉もOK。最終的に勝った人が提示した条件を相手が
飲めば、晴れてこのチョコは君たちのものね。もし負けたほうが「そ
れじゃいやだ」と最後まで言い張ったら、チョコはあげない。はい、
どうぞ。

結果は…
勝った生徒が4つ取り、負けた生徒に3つあげたのが2組。
勝った生徒が6つ取り、負けた生徒に1つあげたのが1組。
いずれも、負けたほうはその条件を飲み、チョコはめでたく彼らの
ものになりました。

以下面白かったコメント。
自分が4つとり相手に3つ渡した2人の生徒たちは、「だってジャ
ンケンに勝ったんだから、それくらいいいと思います」と言ってい
ました。
これに対して相手は「まあ、そんな気がします」とのこと。

自分が6つとって相手に1しかあげなかった生徒は「いや、やっぱ
り6ほしいです」と強気です。
これに対し1つしかもらえないことを受け入れた生徒は、「いつも
弟に全部持っていかれるから、もう慣れています」だそうです。

何より、この6人のうち4人までが、この実験について既に本で読
んで知っていました。
実際の実験は、この実験について予備知識のない、またお互いに面
識のない2人をわざわざ選んで行われていますから、お察しの通り、
全く実験にはなっていません。
が、こんな形の生徒とのコミュニケーションも意外に面白いもので
す。


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