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2012年01月17日(火) 骨身に沁みた文明の利器



 家人が里帰りすると、昼夜の減り張りがなくなり、今回も昼起きてから朝方まで続けてずっと画架の前に座りっぱなしだった。かかり始めると昼夕飯も面倒くさくなるので、ガスストーブの上に薬缶、三歳の頃から使っているアルマイト製の楕円の弁当箱に冷飯を入れ置いて、横に普段は食べないカップ麺、腹が減ったらそれを啜ってひたすら描き続ける。調子が乗って来た夜中の十二時頃、すうっと、と言う感じでガスストーブが消えた。我が家で暖房器具は殆どこのガスストーブ(ただし家庭用ではなく寺等においてある大きい機種)だけである。石油ストーブは燃やすと絵の具の揮発性の溶き油と反応して、独特の臭いが室内に漂って,喉が痛くなるから使っていない。 
一瞬あれっと思ったが、ストーブの開いている栓を閉じてまた画架の前に戻った。
 アルミサッシの入っていない家である。
深夜三時頃、背筋がぞくぞくする事に気がつくと膝頭も異様に冷たくなっていた。左手もごわごわと、動かない。
我に返ったら、俄に寒さが押し寄せて来た。
茶を飲もうにもガスが止まっている。台所も風呂も調べてみたら元からガスが来ていない。もとより家には電気ガマ電子レンジが無い位だから湯沸かし保温ポット等あるわけない。
山用のガスコンロはあるが、サバイバル用のリュックザックに入れて、玄関の天井近くにつり下げてあるのでとるのに面倒で諦め、また制作再開、一通りの予定を描き終へた明け方、部屋の温度計を見たら十度だった。

 着ているものは夏用の甚平の上下に下着麻混の半袖シャツ一枚、靴下は二十年くらい家の中では夏冬に関わらず履いた事が無い。
 だがこれは、ガスストーブがあっての事(古い家なので室温は二十度を越える事は無く、平均十八度)で、十度の室温に六時間薄着で居た経験が無かった。とにかく気が緩んでから体が心底冷えている事が解った。
 風呂に入ろうと思ったが、すぐに風呂もガスだったと諦めた。

 玄関を出て左の壁にガスのメーターが付いているがどうも動いていないようで、ネットで大阪ガスの連絡先を検索して電話をかけた。
事情を話すと、ガスストーブに限らず、一定の出力で変化無くガスが十二時間出続けると、自動的に止まってしまうと言う。ただし、途中で風呂を沸かすとか、ストーブを強にするとかガスの流れが増えたり減ったりすると自動的にリセットされそこからまた時間計測され直す。大きなお世話の防災のためなのか、とにかく有無を言わせず自動停止してしまう。

 だが簡単にリセット出来ると言う。
薄明かりの中、言われたようにガスメータの所に行き、操作を始めた。やっかいな事に二メートルくらいの高さにあって、前に物が置いてあるので手を伸ばしてやっとの所にある白いネジキャップをはずして、露になった黒いボタンを押すと3分後やっとガスが家に通った。リセットする術を知らないまま今まで過ごしてきたことは不覚だった。
このわずか六時間の間、文明の利器の有り難さを思い知った。


→2002年の今日のたん譚













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