目次|過去|未来
最近、茨城に住む親しい友人の絵描きが、ワイン購入リストを送ってくれる。これがもう、どこの酒屋で買うのも嫌になるくらい安い。本来なら畑のちがう、世界ではけっこう名を馳せている工業関連の会社がなぜか、ワインを扱っている。6000円のカルボーニュが2800円という具合。何ケースか買うことにしてふと、リキュールの所に目をやると、ミルト・アイスとあった。フランスでミルトのリキュールの存在は知っていたけれど、向こうのマルシェでも見つけることが出来ないでいた。 南仏に可憐に咲く白い花でMyrte [mirt]と読む。それが、リストにあった。 この植物はその香りゆえに、ハーブの一種としても数えられている。 南欧のような比較的温暖な場所に育つミルトの木は、1年を通して緑を保つ為、この木の原産地である南欧やギリシァなどでは「不死の象徴」ともされていた。 ミルト の「不死の象徴」という一面は、欧州でもボヘミア地方に伝えられているそうだ。 ボヘミアでは、「再生」や「永遠の生命」を願って、ミルトの葉や花を葬儀に使うそうだ この花の日本訳は、「銀梅花」「祝いの木」などとされている。 Myrteは以下のような場面に登場する。 クラシックでは、シューマン:歌曲集に、ミルトの花、2つのヴェネツィアの歌がある。 ●献呈(「ミルトの花」より)Widmung ●月夜(「リーダークライス」より)Mondnacht ●ミルトとバラをもって(「リーダークライス」より) また、 絵画では、モーリス・プリアンションの「ミルトのある静物(1940)」がある。 ゲーテの詩、ミニヨン中に レモンの花の咲くあの国を知っている? ほの暗い葉陰で金色のオレンジが燃え、真っ青な空からは風がやさしく吹く。 そしてミルトの木は音もなく月桂樹は高くそびえるあの国を。 その国にあなたと一緒に行きたい! 私の愛する人、あなたと一緒に行きたいのです。 …以下略 ヘルダーリン の詩にも、 プラタナスの樹かげ 花々のあいだを縫ってケピソスの流れはさざめき 若人たちは栄誉を夢み ソクラテスは人の心をとりこにし アスパシアはミルトの繁みをさまよい 友愛の朗らかな叫びは かしましい広場のさなかからひびきわたり わがプラトンはかずかずの楽園を作りなし 祝祭の歌は春をにぎわせ 霊感の奔流は ミネルヴァの聖なる丘から 女神を讃えよとばかりに流れ落ち 百千の甘美な詩興の刻には さながら神々の夢のように 老いの影は消えうせた 『ギリシャ』川村次郎訳 河出書房新社 最後に車では、BMWの328iセダンにミルト・ウッド・パネルが標準装備されている。
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