☆長崎に帰ってきて、働いてます。 が、また東京に戻ります。必殺とんぼ返り。 だんだんどちらが自分の本拠地かわからなくなってきたなあ。
都内には私の仕事があって、担当編集者さんたちがいて、友だちも先輩も弟子もいて、居酒屋デートにつきあってくれるひとがいて、と、いろいろと得難い存在があって。 そして、あそこには、私の定宿がある。 あの場所に滞在する時間そのものも、私には上京するその理由のひとつだったりします。 安らぎと安心と安全、完璧でフレンドリーなサービスがある、あのホテルで過ごす時間はプライスレスです
☆ホテルをチェックアウトしたあと、羽田に向かうリムジンバスの中で、窓の外の景色を見ながら、ぼんやりと自分の現状について考えていました。 四十六歳になった私は、以前よりは健康ではないし、以前よりはお金持ちでもない。仕事は忙しすぎて、どこかに逃亡したいくらい。何しろ今は出版不況で、不況以前と同じ量を働いても、同じだけのお金は返ってこない時代。これはなかなかにシビアです。
でも、私はいま、以前よりも幸せなんじゃないかなあとか思っていました。 唯一の贅沢と自分に許している、お気に入りのホテルでの滞在はまだできている。以前よりもたぶん品よくホテルでふるまえるようになっているし、ホテルの人たちも私のことをお客さんとして、とても大切にしてくださる。 都内では時間が足りないほど、あいたいひとたちがいる。仕事だって忙しいけれど、いまどきそれは贅沢すぎる悩みだ。仕事がある、私の原稿を待ってくれている人たちがいるってなんてすばらしいことなんだろう。
今より若くて今より健康で、今よりお金持ちだった頃の私は、この穏やかさを持っていたかな、と思います。今の私もたぶん傲慢ですが、若い頃の私は、遙かに傲っていたと思う。
もう私は若くはないけれど、自分を大切に、穏やかに生きていければいいなあと、東京の空を見ながら思っていました。
長崎に帰ってきて、ノートパソコンで仕事をしながら、呼吸をしていること、キーボードを叩いていること、そのひとつひとつの動作ができることに、静かな幸福を感じています。 この一瞬一瞬の穏やかな幸福を忘れないように、作品を書いていこうと思いました。
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