DAY
私の日々の下らない日常。
最近はマンガばなし。


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2007年07月20日(金) 裏切りの友

行かせてはいけなかったのだろうか。
いまさらながら武王は思った。

多分、自分が絶対に行くなといえば、武成王は行かなかったのではないかとも思う。楊ゼンの話を聞くと、武成王が地上に残ったところで、結局空間使いの妖怪仙人に連れ去られていただろうから、結果は同じだったかもしれないけど。
でも、違ったかも知れない。親友を救えなかったという深い傷を胸に負いながら、それでも彼はこの新しい国のどこかに居たのかも知れない。そうしたら、己の矜持にしか興味のない彼の息子も、変わらずに自分の護衛をしていたのかも知れないとも思う。彼の弟も、あんなに沈んだ顔をしないで済んだのかもとも。

だけど、何度やり直すことが出来たとしても、きっと自分は武成王を行かせてしまうだろうと武王は思った。
旦は行かせるなと言っただろう。武成王もそれを分かっていたから、武王がひとりでいるところにやって来た。全部分かって、武王は赦した。
「必ず帰って来いよ」とだけ言った。武成王は「御意」と答えたけれど、お互い叶えられない可能性に十分気が付いていた。

最初に武王を名乗ったとき、武王とはその衣にだけ宿る存在だった。緋色の衣を脱ぎ捨てた瞬間、若者はただの姫発に戻れた。周囲の目を盗んで遊びに行くのも、弱音を吐くのも平気だった。
しかし肌が柔らかさを失い、気力が高まっていくに連れて、姫発は自分が名実共に王冠を戴く者へと変質していくことを自覚していた。
姫発は豊邑の街を悪餓鬼たちと駆け抜けて、遊郭に入り浸って娼妓に可愛がられ、博奕打ちと馴れ合った。武王にはそんなことが許されているはずがないし、武王はそれを望もうとも思えなかった。
そんなことに自分の本質があるはずはない。自分は変わっていないと思いたい。けれど―――もう、姫発が何処に居るのか、自分でも分からなくなってしまったのは事実だった。

武王はもう、友人の為に死ぬことは出来ない。
自分の為に自分を賭けることも出来ない。
民の為に望まれる為に存在する王。それが武王だ。姫発ではない。
王の座はあまりに孤独だった。
いつだって誰よりも信頼できる旦が居てくれた。たくさんの仲間が居る。支えてもらってようやく自分は王になれる。だけど冠を頭に載せることだけは誰とも分け合えない。


武王は立ち上がり、欄干に近づいた。空は抜けるように青い。綿菓子のような雲が散らばっている。
うつくしい、と武王は思った。
この世界はうつくしい。それなのに―――彼は孤独に潰されそうになる。
「姫発」は世界を美しいと思うこと以上の何も望まなかったというのに。

いつか自分が武王であるために迎える女が、姫発を見つけてくれないだろうか。
強い風が吹く。
友を救うために、ただ自分のためだけに死んだ男が、疎ましいほどに羨ましかった。

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仙界対戦の折、武成王が武王に許可を取ったかどうかは分かりませんが、常識で考えれば無断で来たとは思えないので、こういう捏造ネタを。
発も武王=姫発の境地に至れるには、邑姜との出会いが必須だったのではないかと思います。「姫発」を知らない邑姜が愛してくれて、心の一番深い場所にまで降りてきてくれるのが、本当に支えになったのではないかな。
姫発は本質的に非常に利他的で、逆に天化はとことん利己的な人間だと思っています。

上がった封神熱に浮かされて、発邑とか望普とか漁ろう〜と思って渋谷のまんだ○けに行ったら、封神スペースが棚半分になってて大ショックでした。つ、ついこの間行ったらちゃんとカップリング別になってたと思ったのに…!
やっぱり連載終わるとこんなもんですね〜…寂しい…。池袋とか中野にはまだあるかな。近々行こう…。


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黒沢マキ [MAIL] [HOMEPAGE]