西方見聞録...マルコ

 

 

困ってる人ー世界は視点によってこんなにちがうー - 2011年07月03日(日)

 さて今話題の困ってる人を読んだ。


 こ、これは、、こんなに人をわらかしながら、ものすごい大事なことをさらっといっちゃってるよ、この26歳は。と言う茫然自失の1冊である。

 とにかく笑って泣いて誰でもきっとすごく短時間でこの1470円の本を読みきってしまうと言う筆力がまずすごい(ところで泣き所と笑い所が、ココ笑うところですか?ココ泣くところですか?とちょっと呆然とするくらい常識と逆転してるんですが、病のクライマックスで人を爆笑させてアンタどうする)。

 しかし、そんな読ませ力を持って、訴えているコトの内容がすごいのだ。

 <困ってる人>の支援者から当事者へと立ち位置を転置させた作者がみた支援者のときの世界像と当事者のときの世界像のその変容のすさまじさ。

 <支援者>(元気な頃の作者や医者群像)は「困ってる人」を助けることでものすごい勢いで自己効力感(BYバンデューラ)と居場所と生きがいとそして報酬を得ている。その証拠にみんなぶいぶいのワーカーホリックだ。
 <当事者>(病気な頃の作者やビルマ難民)はそれらを惜しみなく支援者に提供することでなんとか生き延びようとするが、支援者の都合の良い自己効力感提供マシーン以外の何者かになろうとすると「自立」と言う言葉で支援者との関係を変容させられ(ときには切られ)、世界の奈落との断崖絶壁すれすれの道を1人で歩まねばならない。

 支援者・医者様の考える自立(福島県の親元での庇護)と当事者・作者の目指す自立(病院の近くに引っ越して福祉サービスを得ながら執筆活動と恋人とデート)の隔たりは最終章の作者の大爆発によって、それぞれの社会的バックグラウンドや世代の格差として、これでもかとわたし達の眼前に姿を現す。

 当事者(ビルマ難民や難病者)は多くの場合、支援者側の世界に響く言葉を持たずに支援者に都合の良い代弁者によってその声を捏造されるケースが多い。それを作者は支援者から当事者と言う「向こう側」に立つ場所を移動させたことによって大声で言ってのけたのだ「向こう側から見るとこの世界はこんなことになってるぜ!」と。

 「困ってる人」と言う奇書(貴書)は「困ってる人」をかきながら「支援者」の姿をエスノグラフィックに描き出した書でもある。

 これが二つの世界の異なる視点を双方に響く言葉で言語化することによって共通理解を生み出すという「媒介力」(注)なのだと思う。

 
 (注)「媒介力」わたしのD論のキータームでありながら、主査に却下され、現在日の目を見る確率のすごい薄い言葉なんですが、ちょっとこんな世界の片隅でつぶやいてみました。

 
 
 


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