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川崎サポ・マラン遠征記(チャーター編2) - 2007年03月15日(木)

▽マランへ行く(3)


 8時前に、k氏がマランに行くというので、必死に支度をしてついていく。

 駅に着いたら8時4分、窓口でマランマランと大騒ぎをすると、エコノミ?とか
 聞かれるので、エコノミエコノミと大騒ぎすると、きっぷ(硬券)を買えた。

 2枚で9,000ルピアで、1枚だと60円くらいか。

 この値段なら途中で降りても悔いはないし、何度も言うが、ほかに地名を知らない
 からきっぷを買えない。


 列車はすでに入線していて、駅にいた職員やら通勤客やら暇そうな市民15人
 くらいにせかされて指差された列車に飛び乗ると、すぐに発車した。

 乗り込んだ最後尾車両は混んでいたが、先頭車両まで行くとガラガラであった。
 オール3等(という言い方が正しいのか?)の真ん中くらいにはビュッフェ車が
 連結されていて、数人がかりで飲み物を作っている。


 僕は、海外でも割と平気で買い食いをするが、この飲み物を飲むと腹を壊すと
 いうことは容易に想像できた。


 ホコリまみれ、シートは破れかぶれの車両で、ようやく窓の割れていない座席に
 腰を下ろす。片側に2列と3列のボックス席である。

 早速、車内販売が来て、商品をボックスごとにポンポンと置いていき、買う気が
 ないと3分後くらいに回収していく。新聞、雑貨、惣菜、果物など、入れ替わり
 立ち代わり売りに来る。車内販売でハサミを買う奴がいるとは思えないが。
 ときどき、商品を持たない物乞いも来る。


 さて、少しずつ、乗客が増えてきて、僕の隣にヒゲのオヤジが座った。

 ヒゲオヤジは新聞売りが来ると投げ込まれた新聞をパラパラめくり、買うのかと
 思ったら座席に戻して回収させていた。新聞売りは何人もいるらしく、オヤジが
 そのうちの一つを購入したので、僕も真似して買ってみた。

 1,000ルピア。

 オヤジが指を1本立てて値段を教えてくれた。値段の下三桁は省略することが多い。


 


 列車は各駅停車と思われたが、時々飛ばす駅もある。前日に通ったマランへの
 風景を何度も見たので、とりあえず方向は間違っていない。このあたりは複線で、
 列車は60キロくらいのスピードで快調に走る。

 順調にマランまで行けそうだ。
 いざとなったら、帰りはタクシーにでも乗ってしまえ。


 だんだん空いてくると思っていた列車は、逆に駅に着くたびに混んできた。
 僕の3人がけは隣のヒゲオヤジが肘や足で踏ん張っているので2人だけだが、
 k氏は律儀に3人で座るようになったので窮屈そうである。

 途中、毒の沼を通った。

  「泥ですね」

  「ええ」

  「一面泥ですね」

  「ええ」


 線路ギリギリに泥が迫っていて、沼の中にぽつぽつと建物が取り残されていた。
 沼のはるか彼方には、真っ白な煙が立ち上っていた。いまだ噴出し続けるガスと
 泥に乗客も興味津津で、徐行中、みんな沼を凝視していた。

 一部で岩石を積み上げて泥を食い止める工事をしていたが、いつまで持つのか
 わからない。毒の沼地なんてドラクエっぽいが、郊外に突然出現とは迷惑な
 泥である。



 線路はいつの間にか単線になっていて、行き違いで停車中は暑い。そのうち、
 ヒゲオヤジが陥落して僕の座席も3人がけに。ふんぞり返っていたオヤジだけに、
 さすがに狭い。物売りがやかましい。例のビュッフェの飲み物まで売りに来た。


 おまけに楽隊までやってきてブンチャブンチャカ歌いだす。


 あの大きな楽器をどうやって持ち込んだのか。近くに座っていたサングラスを
 かけた兄ちゃんが、連れの女にいい顔でもしたいのか気前よくチップを渡すので、
 楽隊はさらに景気づいて声を上げる。暑いし寝不足だし、ボーっとしてきた。

 よく「電車内で平気で寝るのは日本人だけ」といった日本人評を耳にするが、
 インドネシア人も寝る。検札を済ませて安心したこともあり、僕も時々舟を
 こいでいたようだ。



 ふと、のんびりとした短急汽笛が聞こえて列車が停止した。

 森の中で人家や道路は見当たらない。

 5分ほど経過しても動かないので、車内も雰囲気も慌しくなってきた。


 暑いし楽隊もうるさいし、僕は座席を放棄してデッキに進んだ。k氏の調べに
 よると、マランまであと1時間くらいらしいので、それくらいなら座席に
 しがみつかなくてもいい。

 自転車が積まれて狭いデッキから前方を見ると、線路に倒木があって男たちが
 除去作業中である。デッキが狭いので、機関車に乗り移る。

 機関車の足場には、上半身裸のガキンチョがちょこんと座っていた。そう
 いえば今しがた、列車を眺めながら先頭に向かって歩いていた子ではないか。
 暇つぶしにタダ乗りのようだ。


 煙草を吸っていると、作業を済ませた男たちが戻ってきて発車した。
 走り出すと機関車めちゃくちゃ揺れる。デッキは自転車山積みで、乗り移るのは
 危険。

 まぁ、機関車にへばりついて旅するというのもなかなかできることではないので、
 このままマランまで行くことにした。


 「まぁ」などと書いたが、一瞬でも油断すると死ぬ。


 車体にしがみついている手のひらは、ディーゼルのすすで真っ黒になった。
 途中の駅から身軽な青年が機関車に乗り込んできたので、駅に止まるたびに
 「マラン?」ときっぷを見せるやり取りを繰り返した。

 きっぷにマランとは記載されていない。ひょっとしたら、上野とか梅田の
 ように、都市の名前と駅の名前が違うかもしれないので、くどくど聞いた。

 煙草を吸うらしい彼に、シンガポールで買った煙草をおすそ分けして、
 しまいに一箱あげてしまった。彼は、後から乗って来た友達と分けあって
 吸っていた。


 風景に人家が増えた。沿線の洗濯物にアレマ色を見かけるようになる。


 やがて、彼の様子が変なので困った顔をしていると、副本線を持つ大きな駅
 に到着するところであった。MALANGと書かれた看板が「進行方向に」建って
 いた。k氏も独自に乗客とコミュニケーションしていて、二人で安心して下車した。

 何のことはない、マランの中心駅はMALANGなのであった。随分アホな外国人と
 思われたに違いない。旅の恥はかき捨てである。きっぷは、同じ運賃区間の
 最も手前と遠方の駅を併記しているようだ。

 このきっぷは回収されなかった。用意周到なk氏によると、20分だか30分
 だか遅れたとのことだが、毒の沼での徐行と倒木による緊急停車を考えると、
 ほぼ定時といっていいと思う。3時間もかからなかった。


次回へ続く

筆者・写真:稲川さん 文責:おが


...



 

 

 

 

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