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 アッシャー家の弔鐘(上・下)/ロバート・R・マキャモン

『アッシャー家の弔鐘』(上)
出版社より
文豪ポオが名作「アッシャー家の崩壊」で描いた悲劇の一族、アッシャー家は実在した!のみならずその一族は、150年を経て、アメリカの軍需産業の頂点に位置する「アッシャー・アーマメンツ社」の世襲オーナーとして君臨し、ノース・カロライナの山奥に壮大な屋敷を築いてひきこもっている。家業を嫌い、ニューヨークで売れない作家暮らしをしていた主人公リックスが、「父危篤」の知らせに帰郷して知った一族の秘密とは─。モダンホラーの旗手マキャモンが怪奇幻想小説の先達者ポオにささげる話題作。


『アッシャー家の弔鐘』(下)
出版社より
ペンタゴンを影であやつる「死の商人」─兵器製造業者としての家業 を嫌って、ニューヨークに出奔していたリックスはブライアートップ山山麓にあるアッシャー家の屋敷へと帰っていく。自らの家系をテーマにした小説執筆をもくろむ彼が見たのは、子どもさらいの怪人<パンプキン・マン>が森に出没し、迷宮と化した怪建築<ロッジ>が時折鳴動する驚くべき世界だった。そして古文書からリックスが知った一族の驚くべき秘密とは?鬼才マキャモンが前人未到の領域に踏み込んだ壮大なゴシック伝奇小説!

※画像は原書 『Usher's Passing』
※ロバート・R・マキャモンの「R」は「リック」。マキャモンの自伝的要素も加味されている。


エドガー・アラン・ポオの名作短篇「アッシャー家の崩壊」へオマージュを捧げた第六長篇。あのアッシャー家が実在、軍事産業の大立者として隠然たる権力をもっている──というアイデアに基づく。マキャモン作品中、もっともストレートに怪奇小説を指向した作品。

アッシャー家の次男で、実家から離れてひとりアトランタでホラー小説を書いているリックス。ある日、一族の長である父ウォーレン・アッシャーが危篤状態であるという報が届き、彼は気の重い帰郷を決意する。ノース・カロライナの広大な《アッシャーランド》に戻ったリックスが目にしたのは、「アッシャー病」を悪化させ、死の床についている父の姿だった。屋敷に滞在することになったリックスは、やがて一族の秘密を探り当てることに・・・。

音や色などの激しい刺激に神経が過剰に反応して死に至る「アッシャー病」は、ポオやH.P.ラヴクラフトら、怪奇作家によく見られた神経症的性格を病気として誇張したものだろう。鬱蒼とした森、不吉な屋敷への帰還、奇矯な一族など、古典的なゴシック調怪奇小説のモチーフが随所にひかれている。一方で、森のなかをうろつく怪物「パンプキン・マン」には、マキャモンらしいノスタルジックな恐怖と叙情がこめられている。

幻想的な「巨大な振り子」のイメージと現代的な活劇サスペンスをともに持つクライマックスは、壮絶なカラストロフィによって閉じられ、ゴシック風怪奇小説とモダン・ホラーの要素をきれいに融合させている。

─(ロバート・R・マキャモン作品案内/文藝春秋・編集部)


内容は、ほとんど上の作品案内に書いてある通り。アッシャー家の人間のみがかかる「アッシャー病」は、生きながらにして体が腐っていくような病気で、冒頭から腐肉の匂いや死臭がぷんぷんしている雰囲気。だが、その病気の進行を遅らせるために、代々受け継がれてきたこととは、人肉を食べることであった。

それが一族の秘密でもあるわけだが、もうひとつ、重大な秘密が、広大な屋敷の地下に隠されていた。それが「巨大な振り子」である。この振り子の振動によって、いつも屋敷は震えているようで、ひとたび振り子が大きく動き出せば、周囲は大地震に見舞われるといった恐ろしい仕組みになっている。

だがこれを作らせたのは、この世のものではない悪魔であった。最初は主人公リックスの味方かと思っていた執事が、実は恐ろしい悪魔の手先であったとわかったとき、戦慄が走る。

「アッシャー病」がメインの災厄かと思ったら、実は「巨大振り子」が待ち受けており、さらにその裏には悪魔がいるという、とことん呪われた一家の話だが、リックスが跡を継いだのちは、病気も現代医学に委ねることにし、徐々に昔からのアッシャー家を変化させていくという、前向きな方向に向かって、幕は閉じる。

マキャモンの他の作品とは、なんとなくどこか違うような感じがしていたが、全編を通じて死臭が漂う雰囲気は、ちょっと引くかもしれない。だいたい主人公がヒーローになって、悪に立ち向かっていくというのが、マキャモンの作品の核になっているのだが、これに関しては、そういう話でもなかった。何が怖かったといって、心底から信じていた、いかにも人のよさそうな執事が、実は悪魔だったというところだろうか。

それと、アッシャー家は武器を作っている会社である。戦争で人を殺して儲けている会社だということに、主人公のリックスは、非常に憤りを感じている。だが、武器商人は世界になくてはならないものなのだ、と例の執事は教える。それが悪魔のささやきなのである。それもまた怖い。こんな悪魔のささやきを聞いた人間が、世界には大勢いるのだろう。

2004年10月08日(金)
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