読書の日記 --- READING DIARY
 ⇒読書日記BLOGへ
  schazzie @ SCHAZZIE CLUB



 女だけの町─クランフォード/エリザベス・ギャスケル

<12月読書会課題本>
世の荒波からぽつんと取り残された田舎町クランフォード。浮世ばなれしたこの町につましく暮らす老嬢や未亡人ら「淑女」の面々は、ちょっと風変わりだけど皆底抜けに善良な人ばかり。イギリスの女性作家ギャスケル(1810-65)が、絶妙な味わいの人情噺さながら、ユーモアとペーソスたっぷりに語る女の世界。
─カバーより


これは面白い!というか、愉快!イギリスのクランフォードという町(マンチェスターの近く)の話なのだが、とにかくこの町、ある程度の家賃以上の家を持っているのは女ばかりという状況。たとえ男がいたとしても、どういうわけか姿を消してしまうのだそうな。ともあれ、冒頭2ページ目で、いきなり笑わされた。

「・・・いずれにしてもクランフォードの淑女たちだけで、十分手が足りるのですから。その淑女の一人がかつて私に言いましたように、「男って、家にいるととってもじゃまね!」というわけです」

こんな時代(オースティンやディケンズと同時代)にも、男ってそう思われていたのか!と声を出して笑ってしまった。この淑女たちのやり取りがまたおかしく、「長旅のあとで(といっても、おかかえの上等馬車で15マイル(24キロ)旅しただけなのですが)・・・」といった具合。

ミス・ジェンキンズという男にひけをとらない意志強固な女性については、「・・・とはいうものの、彼女は近頃はやりの男女平等論など軽蔑しきっているのでした」というので、なにやかやと言ってもやはり古風なのだろうかと思っていると、「平等ですって、とんでもない!女のほうが上にきまっているじゃありませんか」というわけだ。

語り手は非常に丁寧に優雅に物語っているのだが、登場人物の一挙手一投足がおかしくて笑える。かといってわざわざユーモラスに書いているわけではなく、真面目に観察して書いた結果が笑えるのだ。こういうのは面白い!

ブラウン大尉という町で唯一受け入れられた男性とも言うべき人については、笑える部分もたくさんあるが、ほろりとさせられるところもあって、「ユーモアとペーソスたっぷり」という解説どおり。マス・マティの母上が亡くなるところでは、またしてもほろりときた。ギャスケルは読者を楽しませる(?)コツを十分把握しているようだ。笑わせたかと思うと、泣かせる。

それにしてもクランフォードの淑女たちが、「俗な」ことを嫌うのはわかるのだが、そのあまりに、滑稽なことになっているのがおかしい。些細なことで大騒ぎする様子や、なかなか本題に入れないおしゃべりの様子が、現代にも通じる女性の本質を捉えているようで、おかしくて仕方がない。実在の人物が目に浮かぶようだ。古今東西、女性はそういったものなのだろう。

そしてまた、「男なんてじゃまね!」と言いながらも、できることなら結婚したいという気持ちを皆持っていること。これもいつの時代でもあることなのだろう。誰か頼れる人がいれば・・・の「頼れる人」とは、女性の場合は、やはり男性なんだなと、改めて思った。また、妻がいなくなってからの夫の弱くなること!これもどこでも一緒なのかも。例え気持ちが通じ合っていないようでも、長年連れそう夫婦の絆というのは、確かにあるのだなとしみじみと思った。これは男女平等とかフェミニズムとかには関係なく、人が人と出会い、何かしらの縁で結ばれたなら、お互いに相手を思いやって大事にするべきだと、自らの反省の意味も含めて感じたことだ。

後半登場する、マス・マティの弟ピーター。父に叱られて家を飛び出し、海軍に入ってインドで行方不明になるのだが、その弟が帰ってくる。このピーターが、ギャスケルの実の兄(商船の乗組員だったが、やはりインドで行方不明になっている)の面影を描いているようで、何とも切ない。その兄が帰ってくればいいなという思いが、ひたひたと伝わってきて、最後のハッピーエンドはあまりにできすぎているとも思うのだが、こうしないではいられなかったギャスケルの気持ちに、これでいいのだと納得せざるを得ないものがある。

この物語の語り手であるメアリー・スミスは、冷静に観察をしているのだけれども、実際にはクランフォードの淑女連と一緒になって、ああでもない、こうでもないとおしゃべりしているのが目に浮かぶ。小さな田舎町のクランフォードと、大都市マンチェスターとを始終行き来しているわけだが、彼女はすっかりクランフォードの人となっているようだ。けれども、女性の本質は、マンチェスターでもクランフォードでも変わらないだろう。しかしメアリーは、両方を眺めることができる点で、淑女連の観察が可能になったのだと思う。この一歩離れた立場が、この物語にユーモアを添える視点として重要になっているのだろう。

2003年12月07日(日)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.
初日 最新 目次 MAIL HOME


↑参考になったら押してください
My追加

Amazon.co.jp アソシエイト