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 The Fourth Hand/John Irving

ハンサムで稀代のプレイボーイであるテレビのアンカーマンPatirick Wallingfordは、サーカスの取材中にライオンに左手を食いちぎられてしまう。その後、自殺したOtto Clausenの左手を、Dr. Zajackによって移植されるが、移植後1年で再び失ってしまう。移植前に、Ottoの妻Dorisのたっての願いで子どもを作る羽目に陥り、期せずして父親となる。数限りない女性と関係を持ちながらも、真実の愛に目覚めていくPatrickだが、ついに「第四の手」を手に入れる。

Patrickは彼の元妻によれば、「けして大人になれない、いつまでも子どものままの男」である。なるほど言い寄る女性にはけして嫌と言えず、欲しいものは欲しいと単純に行動してしまう男だ。文中に登場するE.B.Whiteの『Charlotte's Web』や『Stuart Little』は、彼の子どもっぽい一面を象徴しているということだろうか。

対するMrs. Clausen(=Doris)は「とことん大人の女性」という設定。いきなり子どもを作って欲しいとPatrickに迫り、その場で事に及んでしまうあたりは、クレージーな女としか見えないが、実は自分の意志をちゃんと持った、しっかりと地に足のついた大人の女性で、彼女は心の底から夫の死を悲しんでいたのである。彼女は左手よりもっと大事な、つまり心底愛していた夫を失ったのだ。夫との間に子どもができなかった彼女は、その夫の片鱗を所有する男に、最後の望みを託したということだろう。

PatrickはDorisを愛するようになるが、それは彼女が多分に母性を持っていたことと、他の女性にない強さをもっていたからかもしれない。彼は無邪気に「愛している」と言うが、彼女は「愛するようにつとめる」と言っているように、自分の気持ちが決定するまでは、けして相手に期待させないという意志の強い女性。子どもを作ったいきさつは仰天ものだが、本来は夫の面影が消えるまで、他の男性は愛することが出来ないという女性だったのだ。

アーヴィングは今回、コメディ&ラブストーリーといった感じの作品を書きたかったようだが、それぞれのエピソードや言い回しなど、十分にコメディの要素があるものの、最後にはコメディをラブストーリーが上回り、「大人の愛の物語」となっている。最後にDorisの真意がわかると、たとえようもなく切なく、胸を打たれる。一見、主人公はPatrickのようだが、実はこの話はMrs. Clausen(=Doris)の物語だったのである。

アーヴィングは小説を書く前に、全ての登場人物の性格を決定しているということだが、この作品でも、それぞれのキャラクターが非常にはっきりしていた。アーヴィング独特の奇怪な世界も健在で、サーカスやどこかに障害がある人(肉体的および精神的にも)など、事欠かない。その代表がDr. Zajackの一家だろう。そういったイメージを象徴する動物(これもお約束)は、Dr. Zajackの犬で、『ホテル・ニューハンプシャー』に登場した犬のソローを彷彿とさせる。

ところで「第四の手」とは一体何だったのか。
それが分かった時、この小説がラブストーリーであることを、深く認識できるだろう。ラストはさすがアーヴィング!といった終わり方で、じっくり時間をかけて読んだ甲斐があったという満足感があった。


2002年07月30日(火)
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