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■ ロビンソン漂流記/ダニエル・デフォー
この物語はあらすじだけは知っていたが、ちゃんと読んだことがなかった。だから無人島で、ロビンソン・クルーソーがどんな小屋に住み、何を食べて生きていたのか、またどうやって助かったのかなどという詳しいことはよく知らなかった。
本書は講談社の青い鳥文庫という児童向けの本だが、翻訳は中野好夫さんである。中野さんと言えば、サマセット・モームなどを訳している素晴らしい翻訳者である。またスウィフトの研究者としても有名で、もちろん『ガリヴァー旅行記』も訳している。
デフォーはスウィフトと同時代の作家であるし、同じ冒険譚でもあるから、中野さんとしてはお手のものだろう。そういうわけで、この本は児童向けに訳されているとはいえ、大人向けの本に負けない立派な訳であろうと期待して読むことにした。
中野さんはすでに故人で、今となってはいささか古い言葉使いであったりするのだが、少しもひっかかるところのない、流れるような文章は見事であるし、英語が透けて見えてこないところなどもさすがである。私ごときが中野さんの翻訳をどうこう言える立場でもないのだが、あえて翻訳にこだわっているのは、こうしたもともとは大人向けの物語でありながら、児童向けに訳し直されているものというのは、往々にしておかしな訳が多く、がっかりさせられることがしばしばあるからだ。その点で、この本は非常に満足できるものだった。
有名な物語だから、内容を今更書くこともないだろうと思うが、ひとことで言えば、ロビンソン・クルーソーが家出をして船に乗り、その船が難破し、一人無人島に流され、27年2ヶ月と19日の間、その島で暮らしたという冒険物語である。
この本が出版された当時は、『ガリヴァー旅行記』とともに、大変もてはやされたようである。何もないところで、知恵と工夫によって暮らしていく様は、いつの時代でも面白く読めると思うが、現代の物が余っている時代の子どもたちは、どのように感じているのだろう。私たちの年代では「子どもの頃にわくわくしながら読んだ」という人が多いが、果たして今の子どもたちもそんな気持ちになるだろうか?そんな冒険に対する夢が少しでも残っていてほしいものだと願わずにはいられない思いがした。
最後に、この物語は実話ではない(実話と思っている人も少なくないようだ)。なのに、まるで実際に経験してきたかのように、生き生きとリアルに描かれている。それがデフォーの想像力の素晴らしさなのだ。映像も何もない昔の人のほうが、想像力ははるかに豊かであったに違いない。現在では本がヒットすると、すぐに映画化されたりする。読み手の想像力は、貧弱になるばかりだ。
2001年06月15日(金)
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