へそおもい

2009年04月09日(木) 気がつけば空の下

深い深い奥底に
それはそれは
美しい繊細なガラスの世界
完璧で秘密めいた世界を
もっている人がいる。

わたしは
その美しいにおいをかぐと
無意識のうちに
息をすってとめて
目をとじて

ジャポーンと
とびこんで
深い深い水の底に
もぐっている。

もぐってもぐって
その美しい世界に
近づいてゆく。

そのもろくて美しい世界は
とても強力な魅力があって
近づけば近づくほど
他のものがなにもみえなくなって
わたしは
すっかりとりこになる。

しかし
一旦
その世界にはいってしまったら
容易にはぬけられない。

そして、
その世界は
わたしという不純物が
はいってしまったとたんに
きゅっと
カタチを変えてしまう。

わたしは
わたしの内側と外側との
密度の違いに苦しむ。

皮膚の外が
清く純粋すぎて
息ができなくなる。

苦しくて苦しくて
逃げ出したいけど

そんな思いも
バラバラになるくらい
美しいつぶつぶが
皮膚の内側に侵入してきて
わたしのカタチがわからなくなる。

もがいても
もがいても
空がみえない。

空をさがして
目をまわすと
目の中に
まぶしすぎる光が
はいってきて
上も下もなにもかも
どんどん
わからなくなってくる。

だから。

もう
美しいにおいをかいでも
もう
もぐるのは
やめる。

どうやって
ぬけだせたのか
わからない。

気がついたら
空の下にいた。

この長くて
苦しい時間の中で
学んだことは。

あの
わたしの心をうばう
美しい世界は
ちょっと離れたところから
眺めるだけが
わたしにとっては
いいということ。

そして
決して不純物が
近づいて
あの世界のバランスを
崩してしまっては
いけないということ。

崩すならば
自分が崩れる覚悟で
一生に一度だけで
わたしは
もうたくさん。


むかしから
ひとりで
もぐるのが好きだった。

仲間ができたのかとおもった。

いやいや
違うのだ。

やっぱり
もぐるのは
ひとりでしか
できないものだった。



気がついたら
空の下。

川の上の満月と
夕焼けに染められて
紫がかった桜の花と
わたしの影と

仲良く
おしゃべりを
していました。

わたしは
もう
自分の場所を
見失わないだろう。

太った金魚を
右手に握って
空をみて
笑うだろう。





春の風がふきました


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はたさとみ [MAIL]

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