ひも

 後頭部から紐が伸びていて、
 紐の先に噛み終わったガムがついていて、
 それを引き摺りながら歩いている、そんな感じ。
 ガムにはゴミばかり付いてくる。
 重い。だんだんと重くなる。


 鏡の前で、いつかのようにファイティングポーズをとってみる。
 泣きわめきながらサンドバッグを叩く力が、躰のどこかにあると信じ
 湧きあがるのをしばし待ってみるけれど、
 握った拳はだらしなく弛緩する。
 途端に浮遊する。
 ここに在る肉体
 ゴミのついたガム
 ガムのついた紐
 それを引き摺る肉体
 その重さに堪えられず、剥がれて浮遊する。




 「癒し」
 なんて偽善的なことばだと思っていた。
 おいらが「癒される」のは
 ショスタコーヴィチの五番だったり
 ストラヴィンスキーの「春の祭典」だったり
 伊福部昭の「リトミカ・オスティナータ」だったりするのだと。

 しかしいま、それらは空っぽの灯油缶の底をかき混ぜることしかしない。
 灯油はない。一滴もない。
 ガコガコと空ろな音が響くばかり。



 天上へと続く階段が見たい。
 突き動かされるようにそれを上りながら、
 そこで聴こえるだろう天上の調べ。
 その霧散した粒子が、すうと入りこむのを感じられたら
 鏡の前の肉体に還り、紐を引っこ抜こう。
 明日が来ても動き出せる。
2004年05月18日(火)

メイテイノテイ / チドリアシ

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