空色の明日
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2019年03月03日(日) 変わらないこと

私が子供の頃は今ほど食べ物の種類はたくさんなくて
ケーキは誕生日とクリスマスに食べるものだったし
ちょっと町へお買い物に行くと
お楽しみはパン屋さんで菓子パンを買ってもらうことだった。

パン屋さんといっても神戸である。
そのお店は今も創業70年の老舗として存在している。
ケルンというパン屋さん。

今はものすごい種類のパンがあるけれど
当時はせいぜい10種類くらいだった。
それでもトレイとトングを持って
「どれにする?」と母に言われて選ぶときの楽しさは
あの時代にはとてもワクワクする瞬間だった。

私と弟と母はいつも結局同じものを買う。
みかんが好きな弟はオレンジデニッシュ。
あんが好きな母はあんデニッシュ。
そして私はアップルという名のパン。
そして翌朝のためにレーズンの山食を1本

アップルは三角に折ったデニッシュ生地の中に
少し硬めに甘く煮たスライス林檎が入っていて
三角の真ん中にグラニュー糖が一か所載っている。

ちなみにあんデニッシュは同じ形状であんが入っていて
グラニュー糖のかわりにケシの実が載っていたように記憶している。


オレンジデニッシュだけはアルミトレイの上に載った
デニッシュ生地の上に缶みかんとカスタードクリームが
載っているという王道のスタイルだ。

なぜかアップルだけにはデニッシュの名がつかない。
ただアップルである。

先週45年ぶりにそのケルンに行った。

店舗はその当時と別の店舗だがレーズン山食と
オレンジデニッシュが当時のまま並んでいて
突然懐かしくなりアップルを探したが
アップルデニッシュというオレンジデニッシュの
みかんの部分に煮た林檎が載っているものはあったが
あの三角が見つからなかった。

考えてみれば上にトッピングしたほうが見栄えがいいのだ。
何が入っているかわからない三角はあまり見栄えがしない。

残念に思いながら他のパンも買って帰った。
どのパンもとても美味しかった。
店舗が増えた今でもお店が続いているのが納得できた。

その味がずーっと忘れられずまた食べたくなり
三宮に行ったので三宮店に行ってみた。
すると!あった!アップル!!あの地味な三角!!
アップルと書いていないと何かわからない中身!

飛びつくように買った。
そして美味しかった他のパンも。

家に帰ってコーヒーを淹れ厳かにほおばる。
あぁ、あの味。
デニッシュというものが当時の味覚としては
あまりに豪華だった時代。
甘く煮ていたと思っていた林檎は
おそらく砂糖をまぶした生の林檎を
生地に包むことで加熱され少し硬めのシャリっとした
食感を残しつつ甘くやわらかくなっているのだろうと
いまの私は感じる。
私も大人になったのである。
それにしてもあの味!
今食べてもやっぱりリッチな味。

インスタ映えからは程遠いそのスタイルは
その林檎の食感のために必要だったのだ。
ずっとそのパンを焼き続けてくれたそのお店の力。
目まぐるしく変わる流行に流されず
ひたむきに守り続けることを大切にしていること。
老舗とはそういうこと。
それはもちろん美味しさがあって
それを求めるお客さんがあって続くものだけど。

塩バターパンのよこにひっそりとたたずむ
三角のアップル。
きっと私のようにこれを愛した人が大勢いて
その人たちが買い続けるからこそ
ずっと焼き続けられてきたのだろう。

これからは私も買い続ける。
ずっと焼き続けてもらうために。


あ、今日の「いだてん」シベリア鉄道。
演出は大根仁監督!
クドカンと大根監督。
あのリズム感。
ベストタッグ!


安藤みかげ