空色の明日
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2017年06月03日(土) 花戦さ

映像の仕事って大変だなぁと思うのは
時代考証とか、とにかく見ている人が「あれ?」って
思わないようにすることだと思う。

今の朝の連ドラ「ひよっこ」を見ていて「あれ?」っと思ったこと。
舞台は私が生まれた頃の設定。
主人公が洋食店でお箸でコロッケを食べるシーンでした。
問題はそこで使っている割りばしです。
今でこそ、竹でできた表面がつるっとした断面が丸に近い形の
ちょっと上等な割りばしがコンビニなどで普通についてくるし
あっちのほうが多く出回っていますが
あのころには杉の断面四角の、うまく割れなくて
片方がでっかくなっちゃったりするタイプの割り箸しかなかったのです。
今ではあっちの割りばしのほうが少なくなっちゃいましたね。
昔からやっているお弁当屋さんとかお寿司屋さんの持ち帰り用くらいですかね。

小道具さんはきっとお若い方なのでしょう。
もはやあの杉の割りばしもあまり目にしないのでしょう。
でも「あれ?」って思っちゃうのです。たぶん40代以上は。
あれはあの時代なかったぞって。

もう一つ朝ドラ。
前の「べっぴんさん」。
古いビル(設定的には当時新しかったモダンなビル)のホールで。
これも昭和40年代前半ごろの設定。
エレベーターが到着したときの音。
今は「ピンポーン」と2音がなるものが一般的ですね。
ですが、あれは電子音であってあの当時には電子音は
一般的な道具には使用していないのです。
なので、当時は「チン」というベルのような音が
エレベーターの到着音としては一般的。
それが、画面はレトロなのに音だけが電子音で「ピンポーン」と
聞こえるもんですからもう、気持ち悪くて気持ち悪くて。
これも私が40年代生まれだからわかることですね。
ちょうど「ピンポーン」が出回り始めた時期をしっていて
「あぁ、新しいエレベーターってこんな音がするんだ」と
知っていたから、この音に違和感を覚えるわけです。

そういうことを言っていたら、きっとこれからさき
もっともっと「あれ?」と思うことは増えるでしょうし
私より先輩はそういうことを思いながらテレビを見ていたのでしょう。

そういうことを感じる年代に入ったということです。


もう一つ、「あれ?」と思うこと。
それは花。
花はドラマや映画でよく効果的に使われる道具ですが
これが意外に難しいものなのです。
花には季節があり、生息地があります。
本来咲かないはずの季節や、場所にその花を無理に持ってきて
使っている場合、それに気づく人はものすごく興ざめするのです。
さすがに桜は春にしか使わないでしょうが
小さな草木は意外にいい加減に使われていたりします。
それを見てその監督さんとかスタッフさんを
ちょっと「あぁ、季節に興味があまりない人なんだな」と思ってしまうのです。

昨日「花戦さ」という映画を見てきました。
池坊専好を主人公に花と秀吉と利休とで時代を描いた作品です。
池坊の総力を結集してそれはそれは、見事な花の扱いに
監督さんとスタッフさんが普段以上に大変なスケジュールと
心配りでこの作品を作られたであろうことが伝わってきました。

この季節に封切されることをあらかじめ意識してか
冒頭から今の季節の花でスタートして、それぞれのシーンでも
その季節の花だけを厳選してそろえ、そして題材にでてくる花が
ちょっと季節をはずしていれば、その花を求めて
わざわざ探してきたという設定にまで持っていく。

そこまでの配慮は、やはり全面的に池坊の方々の意見を
きちんと尊重して作られている感じがしました。
だから小さな1輪の花でさえすべて生花だし
それは不自然な美しさに整えられているわけでなし
あるがままの生花の姿に、花を愛する人たちは満足して
あの映画を見ることができたと思います。

キャストもものすごく豪華だったし
脚本も森下佳子さんで面白かった。
ただ、それでも私は「あれ?」っと思ってしまったのです。

どんなに演技がすばらしい野村萬斎さんでも
やはりご自分の使い慣れない言葉は難しいのだと。
あぁ、残念でなりません。
自分が関西人でなければ、十分に満足できるほどの
セリフ回しなのです。さすがです。
耳もいい、発音もいい。

しかし、関西人の間というものは、本当に難しいのです。
和田正人さんや山内圭哉さん、佐々木蔵之介さんがしゃべると
ホッとするのです。安心して聞いていられるのです。
言葉の裏にある気持ちが手に取るように伝わってくるのです。
「おぉきに」ひとつとっても速さや抑揚で違う意味になるのです。
今回ばかりは、野村萬斎さんが関西人でないことを残念に思います。
(池坊ですから京都に寄せてくるしかありません)
関西の人でこの役をできる人を思いつきません。


それにしても初日で客席10人です。
残念です。
花の好きな方はぜひ見てください。
花に心を動かされます。
花が語ります。
そんな作品です。
できれば、見てから要所要所に出てくる花の名前を調べてください。
その名前さえもが物語になっています。


安藤みかげ