2003年03月11日(火) |
『PHOTOGRAPH 3』(ル神小ネタ) |
俺が手紙を読んでいる間も、ルディは一枚の写真を握り締めたまま、動かなかった。 手紙を読んだ後、それを封筒にしまい、テーブルの上に散らばってしまった写真をまとめる。そこには、まだ中学から上がったばかりの、幼い顔した俺たちがいた。大塚も、矢野も、石橋も、赤堀も、小笠原も、そして…久保も。 笑ったり、泣いたり、時には喧嘩して過ごした……先輩も後輩もいない、俺たちだけの時間。 その時間は決して戻ることはないけれど、こうした写真は、あの頃の事を鮮明に思い出させてくれる。一年前なら見ることもできなかっただろう久保の笑顔も、今はなつかしく思える。…少し、鼻の奥が痛いけれど。矢野のやつ、このフィルムを見つかったから現像したんじゃなくて、現像できなかったんじゃないか?ふざけているようで、結構優しい、あいつの事だから。
ルディは、相変わらず一枚の写真に見入っている。 そうだよな、こいつは、このくらいの年の久保には一度も会ってないんだから。 「そんなに気に入ったのか?その写真」 「アツシ……頼みがアル」 「何だよ」 「この写真、俺ニくれないカ?」 「別にいいぜ。…そんなに良い顔して写ってんのか?それ」 「アア……最高ダ!」 いやにどきっぱり言い切ったなコイツ。そう言われると気になる。久保がそんなに良い顔で写ってるなんて、いつの時のだろ? 「ちょっと見せろよ」 「…え、ダメだ!これはもう俺の写真ダ!」 ……そうきたか。…なら、こっちも容赦しねぇ。 写真を持っている方の腕を素早く掴み、ルディが身構えたところを……腕の裏側から脇の下にかけて微妙に指をすべらせる。要はくすぐったのだが。
「うわっっ……アツ…シ……ヤメロ…ッッ……く、ヒャヒャヒャ………!」 「おらおら、大人しく写真よこしな」 ルディは結構くすぐったがりだ。特に腕の裏側あたりは特に弱い。デケェ身体をよじらせてジタバタする姿は、存外可愛いかったりする。 ……あまりやると夜の仕返しが怖いから、ルディの手の力が弱まったところでひょいと写真を奪い取り、体を離した。さて、どんな写真か………
………げ。
「返セっ!コレハもう俺がもらった写真ダっ!!」 その写真を見た瞬間呆けてしまい、その隙にまたルディから写真を奪われた。 「ちょっと待て、何であの時の写真がココにあるんだよ!!」 「知るカ!写真の中に入ってたんだカラ!お前の友人ガ送ってきたんだロウ!」 ふと、手紙の内容が頭をよぎる。
【渡欧記念の特別サービスで、ある写真も同封した。どうするかはお前に任せる。ネガは久保がオシャカにしたから、もうそれ一枚しか残ってないスーパープレミアムものだぜ!!】
……矢野の野郎〜〜〜!! アレは、最初の年の文化祭で、クラスの英語劇で「赤毛のアン」やった時のじゃねーかこの野郎!! しかも当時、女子が面白がって、男女の役を逆転させ、「そばかすがあるから」という訳のわからん理由でアン役をやらされて!!ぴんくはうすとかいうビラビラのワンピースを着せられた、高校生活の汚点ともいうべき、悪夢の文化祭!! …その後、何故かその英語劇の写真が飛ぶように売れたらしいが、何でもネガが紛失して焼き増しできなくなったという話を聞き、ほっとしたものだった。誰が自分の女装姿バラまかれて嬉しいものか!! そして、その数少ない一枚の写真が、今、ルディの手の中にある。
「コレ、アツシだろう?とても可愛イ♪」 にこにこと笑みを浮かべて、ご満悦だ。 ちくしょう、さっきから写真を見て動かなかったのは、久保を見つめてたからなんて感傷にひたってた俺が馬鹿みてーじゃねぇかよ!!
「アツシ、この頃ハ華奢だったんだナ」 ……もう受け答えする気力も湧かねぇ。 そう、この当時はまだ十分な筋肉もついてないし、遅い成長期だったから、骨もまだできてなくて、やたら細っこかった。ワンピースを着せられて、あまりの違和感のなさに女子からは喜ばれ、自分ながらショックだった俺はその日からウェイトトレーニングの量を増やしたのだった。 今では、ルディみたくゴツゴツの筋肉はつかなかったけれど、(どうも筋肉の質が違うみたいだ)男としてそれなりの身体はできてきたつもりだ。今の俺がスカートなんぞはいても、気色悪いに決まってる。 それであの忌まわしい過去を忘れたつもりだったのに、この写真ときたら……!
写真。それは確かに過去を思い出させてくれるけれども、いらん過去までほじくり出すもの。 俺は自分の写真の認識にそうつけ足すことにして、とりあえず、 「Schatzi♪Schatzi♪」 と連呼している目の前のバカを、一発殴ることにする。
……さて、コイツがこの写真を持ってるという事は、(俺が渡せと言っても、たぶん意地で離さないだろう)独逸のあいつらにもこの写真を見られる、という可能性は大いにあるという事で。 どうしたらそれを阻止できるだろうか、と、俺は手許にある高校一年生の俺たちに向かってため息をついた。
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