紫
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東京の中野に住んでいたころ。
日当たりのいいベランダは、植物でいっぱいでした。
学生時代に母がもってきてくれた「金のなる木」や、春になると必ず実を結ぶイチゴ、自分の初めての転職を機に買ったカランコエ、シクラメン、桔梗(ききょう)、アジサイ、季節によってキュウリやパセリ、シソ、ネギ、チューリップ、ミニバラ、マーガレット…etc.
雪が降ると新聞紙をかぶせ、夏場は、水やりを忘れないようにして。
今以上に忙しい毎日だったはずなのに、すくすくと植物が育っていったのは、きっとあの日当たりのよかった部屋のおかげなのでしょう。
私は、あの部屋が今も大好きです。
去年の秋、マンションの壁の塗装工事で、金のなる木を残して、カランコエやシクラメンがとうとう枯れました。
あの部屋の思い出が遠ざかっていったような気がして、なんとなくしょんぼり。
いえ、しょんぼりの原因はもっとほかにもあった秋でしたが。
それでも、もう自分で世話をしなくなって3年。
ホントは、もう愛着もなくなりかけていたころでした。
「ほら、がんばってるよ」
今日、お昼ごはんに、おいしいさぬきうどんを食べていたら、母がベランダからひょっこり顔をのぞかせました。
「種が落ちていて、葉っぱが出てきたよ」
母が持つ鉢には、シクラメンの葉が、小さく開いていました。
「こっちは、カランコエ。土のなかで寝てたのかな」
……。
小さくなったけれど、以前と同じくらいしっかりと根付いているシクラメンとカランコエ。
きっと、毎日ベランダに出て世話をしている母のために、この長かった冬を地面の下でじっとがんばっていたのでしょう。
(ありがとう)
と心のなかでつぶやくと同時に、なんとなく置いてきぼりにされたような気持ちになりました。
私って、春がきたことにも気づかずに、まだまだ地面のなかにいるみたい。
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