紫
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いつも歩いている通りにある昔ながらの自転車屋さんで、中古の自転車を買いました。
淡い空色をした自転車です。
なんの機能もついていないシンプルな自転車です。
私は、自転車が大好きな子どもでした。
初めて自転車に乗れたのは、幼稚園の終わり。
家の前の中学校のグランドで、母と兄に教わりながら必死に練習しました。
何度も何度も転んで、すり傷をたくさん作り、母と兄のスパルタな教え方にわんわんと泣きながらも、毎日毎日、練習していました。
ある日、「すぅ〜っ」と私のなかを、一つの風が通り抜けました。
「あ…」
ほんのりと夕焼けに染まった中学校のグランドで、初めて自転車に乗れた瞬間です。
そして、その瞬間から高校を卒業するまで、私はどこに行くにも自転車と行動を共にするようになりました。
あの日、私のなかを通り抜けた風は、空を飛ぶ感覚と似ていました。
もちろん、夢のなかでの感覚です。
自転車に乗っていると、いつか空を飛ばせてくれる。
幼心に思ったことは、母にも兄にも誰にもないしょです。
誰かに話すと、空が飛べなくなる、と思ったからです。
「はい、これでいいよ。中古やけど、いい自転車や」
いつもの通りの自転車屋のおじさんが、淡い空色の自転車に、空気を入れて防犯登録をしてくれました。
必要以上に何度もお礼を言って自転車屋さんを出ました。
さっそくいつもの通りを自転車で走りました。
子どものころに私のなかを通り抜けた風が、今日も通り抜けてくれたかどうかは、やはり誰にもないしょ、です。
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