椰子の実日記【JOYWOW】
2003年05月01日(木)
清水幾太郎
学生時代、アイドルは清水幾太郎でした。1907年に生まれ、88年に 他界した社会学者です。ジャーナリストとしても名を馳せた人で、 私は彼の文章術を学びました。岩波新書から出ている『論文の 書き方』など、赤線があちこちにびっしり引かれ、あまりに ぼろぼろになったため、もう一冊買ったほどです。60年安保闘争、 日本全体が熱い頃の思想的リーダーを果たした人で、にもかかわらず 晩年は「日本よ、国家たれ」と雑誌「諸君!」に刺激的な論文を 掲載し、国家たるためには核も保有し、自前の軍隊をもつべきである などと、極端な右旋回をして物議をかもした人でした。 論文「戦後を疑う」を発表した時、私は大学生で、周囲の 友人たちから「清水さんはおかしいのと違うか」と、まるで私が 清水さん本人であるかのように責められたことがあります。
ゼミの論文購読では彼の「流言蜚語」を取り上げ、みんなで議論 したことがあります。流言蜚語とは、デマのこと。デマは社会学 でとても興味深い研究対象であり、指導いただいた杉山助教授 (現・東大教授)にも「オルレアンのうわさ」という翻訳書がある くらいでした。SARSや戦争など、人間にとって災禍がふってわいた 時、流言蜚語は飛び交います。阪神大震災の折にも、「あらぬ噂」 が発生しました。この「噂」を使って「手軽に」「無料で」広告 宣伝をしようと呼びかけるマーケティング手法が本になったりして いますが、社会学的基礎のないままこれをやると、大変なことに なると思います。
清水さんの思想から学んだことははっきりと言語化できないです。 ただ、彼のindependentな生き方は、大好きです。 そして、彼から学んだもう一つのことは、接続語で「が」を使うとき、 警戒しなさい、ということ。「が」は、つなぐ文章の前後が「順」 であろうと、「逆」であろうと、つながってしまうことが非常に危な いのです。論旨を明確にするためには、接続詞に「が」を使わない こと。これ、文章の秘訣です。・・・と言いつつ、私も使っていますが。
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