突然ゼフナスに滾った小咄
2010年11月24日(水)
何がどーいうシチュエーションなのか全然考えてませんが、再会した二人。 いつもの癖で、うっかりエーサンを絡めてしまいましたが。
◇ ◇ ◇
「ゼフがどれだけ愛情たっぷりにサンジを育ててくれたのか、君を見てればわかるよ」 とても優しい目をした彼が、そんな事を言った事があった。 「だってサンジは優しいもの。愛情を知らない人間が、こんなに上手に人を愛せるはずがない」 逞しい腕にサンジを抱いて、髪にキスを落としながらそう言った彼こそ愛し上手だなんて思いながら、養い親である元海賊の厳めしい顔に思いを馳せた。 そう、幼いプライドや意地を捨ててしまえば、彼がどれほど自分を慈しんで育ててくれたか、自分がどれ程彼を慕っていたか、今やサンジの中で笑ってしまうくらい当たり前な事。
「ジジィ!!」 変わらない広い背中に居ても立ってもいられなくて、懐かしいふざけた外観の船に飛び移る。驚いた顔で振り向いた男に、走った勢いを殺せないまま思いっきり抱きついた。ぎゅうぎゅうとしがみついて、久しぶりの養い親の匂いを堪能する。 コックコートに染み付いた食材や油の匂い、変わらない整髪剤の香り、それから、彼独特の匂い(加齢臭?)だって懐かしい。 「お前は……」 久しぶりのゼフを堪能していたサンジの頭を強かな両手ががっしりと掴んだかと思うと、べりべりと引きはがされて、力いっぱい蹴り飛ばされた。 「どわっ!」 思い切り船縁に叩き付けられて、それすらも懐かしくて、サンジは「イテテ」なんて言いながらも上機嫌でヘラヘラ笑っている。 「脅かすんじゃねえ!チビナス!」 ああ、かつては早く一人前として認めてもらいたくて反発していた呼び名だって今となっては愛おしい。だって、彼だけが自分をそう呼んだ。 「どーだ、たまげたか」 床に座り込んだまま、サンジは仁王立ちのゼフを見上げてケラケラと笑う。 彼と再会したら、どんな顔で何を言おうか、もうずっと以前からあれこれ考えていた。素直な自分をお届けする、これが一番意表を突いた登場の仕方だろう。どれだけ自分が彼を恋しいと思っていたか、この愛想の無いクソジジィは思い知るといい。 「やっぱジジィだわ、変わらねーな」 ヘラヘラと笑ったままのサンジの目から、ほろりと涙が零れる。 そんなサンジを見下ろしていたゼフは、フン、と一つ鼻から息を吐いて、片手を差し出す。 「お前はアホに磨きがかかったみてーだな、バカ息子」 「…ははっ…!」 パシン、と掌を叩き付けるようにその手を取って、サンジは勢い良く立ち上がった。きっとゼフには全部伝わっている。サンジが独り立ちして、ようやく気付いたゼフの愛情も、二人の間に確かにあった絆も、彼はあの頃から全部知っていた。 嬉しくて、嬉しくて、もう一度抱きついた。今度はゼフも拒まずに、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。 「よく帰った」 「―――うん」 驚く程優しい声に、また涙が零れる。 だけど泣いたっていいのだ。だって自分は、いくつになったって彼のチビナスなんだから。
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