Dailyみぅこむ

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2001年04月08日(日) 「囲われた墓場」

 薄暗く青い、色が力を失ったような空間に、すすけた白いもやがたれ込め、時々わたしの視界を遮る。もやは絶えまなく動いて人々の足もとや顔を覆うけれど、風は全然感じられなかった。人々はそれぞれに動いていたけれど、彼らに生気はなかった。男も女も、成人から年寄りまでいたけれど、子どもは一人もいなかった。ただ彼らは、意味もなく「墓場」を歩き回っているだけだった。黒いフロックコートを着た背の高い男が、わたしの前を横切って行った。全ての人々が着ている服は黒か白だけ。寒くもないのに、妙にみんな着込んでいる。そういえば帽子をかぶっている人ばかりだ。裾の膨らんだドレスに、傘を指している女性もいる。四角い中庭のようなこの空間は高い壁に囲まれ、たくさんの人がいて、奥へ行けば行くほどもやは濃くなる。
 わたしは「墓場」の中ほどまで歩いて周りを見渡した。ボーダー柄のシャツを着て、ふくらはぎまでの吊りズボンを履いた、痩せこけた男が二人いる。その後ろ姿は区別がつかないほどそっくりだった。きっと双生児のなのだろう。いばらのような黒い鉄の柵に手を突っ張って、くぼんだ場所に横たえられた、青黒い石碑を覗いている。わたしはすぐに分かった。彼らが覗いているのは彼らのお墓なのだ。彼らの表情は乏しく、黒ずんだ顔は怒っているようにも見え、悲しんでいるようにも見える。自分の墓を見つめる気分は、あまりよいものではないのだろうと、わたしは思った。わたしは彼らから離れてさらに奥へと進んだ。人がたくさんいるから、ぶつかりそうになる。でも不思議と誰ともぶつからない。
 わたしは少し恐かったが、彼らと同じように歩き回っていた。やがて、もやで悪かった視界も、奥へ行くほどよくなり、さらに奥に行くには何段か上がらなくてはならないことが分かった。つまり奥は舞台のように、少しここよりも高くなっていたのだ。だがその上がった先には、ものすごくたくさんの人が、フードをかぶってゆらゆらと身を揺らしながらぎっしりと立っていた。彼らの表情からは明らかに怒りが感じられた。もやは彼らから出ているのではないかと思うほどに、彼らのからだにまとわりついては強風に煽られるように流れて消えてゆく。わたしは全身が震えるほどに恐怖を感じた。『これ以上奥に行っても平気、誰もわたしにはなにもしない』と、頭に浮かんだが、自分の恐怖に打ち勝つことは到底できそうになかった。わたしは急いできびすを返し、出入り口に向かって足早に歩き出した。
 その時、歌声が上がった。鎮魂歌のように静かに、「墓場」にいた人たちが歌いだした。男も女も、奥の恐ろしい人たちも、みんな同じ歌を歌った。わたしは足早に進むのをやめて、ゆっくりと歩きながら、やはり一緒に歌った。この歌は初めて聞いたのに、言葉も初めて聞く言葉なのに、なぜか喉の奥から次々と音と言葉が出てくる。
 みんなが歌っている。そうなのだろうか、みんなが、本当に?違う、歌っていない人もいる。青白い顔で立ち尽くす女性は歌っていない。歌っているのはここにいる人の半分くらいで、彼らはゆっくりと出口に向かって歩き出している。だが歌わない人々は歩かず、ただ歩いてゆく人々を見つめていた。
 わたしはまたすぐに分かった。歌わない人たちは「亡霊」なのだ。歌い、出口の大階段を昇る人は本当の「人間」なのだ。だから彼らはあんなにも恨めしそうに、悲し気にわたしたちを見つめるのだ。
 わたしは階段を昇る「人間」たちの中でも最後になってしまった。きっと歌を歌いながら、あまりにもゆっくり歩き過ぎたのだろう。だが急ぐ気はしない。階段はたくさん続いていて、上から白く眩しい光がこちらを照らしている。白い光は流れてゆくもやも照らして、いっそう美しく輝いた。
 わたしはゆっくりと階段を昇りはじめる。たくさんの人が残っていたが、こんな暗く恐ろしい場所にいたくはなかったから、とどまる気にはなれなかった。ふと、わたしの歌声に誰かの歌声が重なった。高く澄んだ艶やかな歌声は、一体だれの声だろう。右を見てわたしは驚いた。いつのまにか、わたしと共に階段をゆっくりと昇る女性がいた。てっきりわたしが最後だと思っていただけに、どっきりした。彼女は黒髪をボブにカットし、ほっそりとしたからだにくるぶしまである真っ白なワンピースを着ていた。顔には笑みを浮かべ、わたしの目をみつめて歌いながら、ぴったりと歩調を合わせて階段を昇る。彼女は美しく、優雅だった。この「墓場」には不相応なほどに。だがわたしは気を失いそうなほど恐ろしかった。なぜならわたしは知っていた。彼女が「人間」ではなく、「亡霊」であることを。

 今回のDailyを読み出して、「なんじゃ、これDaily?」と驚かれたと思います。驚かしてゴメンね、これはみぅこむの本日の「夢の中」です。どうなの、このおどろおどろしい夢は…。専門家に分析してもらわなくてもよくわかる内容です。よほど、就職活動に嫌気がさしてるんでしょうね…。あんまり嫌な夢だったので、Dailyに書いちゃったよ。朝思い起こして、単純に嫌な夢だな、と思ったんですが、細部まで事細かに思い出すうち、「けっこうこれって意味ありげな夢だわい」と感心してしまいました。人の服装なんて、本当によく覚えていたんですよね。特に吊りズボンの双児(双児と言っても30位ですが)。みんな日本人ではなかったんだけど、最後の「美しい亡霊」だけが、日本人だったんだよなぁ…。今思えば緒川たまきに似ていたよなぁ…。あの意味ありげなほほえみは、なんだったんでしょう?!そして亡霊と共に階段を昇ってしまったわたしは、どうなるのでしょうか?!
 次回に続く!
 続かない!もうあの夢の続き見たくない!

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