エンターテイメント日誌

2007年03月19日(月) トルーマン・カポーティとその周辺

昨年の筆者が選んだベストワン「カポーティ」のDVDが今月発売されたようなので、そろそろその映画について語りたいと思う。評価はAA。本作は傑出したエンターテイメントであり、予備知識なしでも十分見応えがあるが、出来ればトルーマン・カポーティという作家の人となりを知っていればより一層楽しむことが出来るだろう。

カポーティの小説なら勿論この映画で中心的役割を果たす「冷血」も読んでおきたいが、まず何よりもお勧めしたいのが村上春樹が翻訳した短編集「誕生日の子供たち」である。ここにはいくつかの自伝的小説が取り上げられており、孤独で傷つきやすい、純真なカポーティ少年の姿が浮かび上がってくる。おば(老嬢)スックとの交流を繊細に綴った「クリスマスの思い出」や離れ離れに暮らす父親との「あるクリスマス」など、涙なしには読むことが出来ない。巻末の村上氏によるカポーティの生涯についての解説も非常に参考になるだろう。

さらに、唯一の著書「アラバマ物語」To Kill a Mockingbird でピューリツァー賞を受賞したハーパー・リーについて知っておくのも映画「カポーティ」の理解に役立つだろう。ハーパー・リーとカポーティは幼馴染で、リーは「冷血」執筆時に取材協力をし、カポーティは小説の巻頭にリーに対して謝辞を述べている。「アラバマ物語」に登場する少年、ディルはカポーティがモデルとされている。ただし、「アラバマ物語」の翻訳は古く現在入手困難であり、グレゴリー・ペックがアカデミー主演男優賞を受賞した映画版も名作なのでそちらをお勧めしたい。「カポーティ」にもその映画のプレミアの様子が描かれている。ペックが演じた主人公はアメリカ映画協会(AFI)が発表した「映画史上最高のヒーロー」の投票で、インディ・ジョーンズ、ジェームズ・ボンドを抑えて堂々第1位に選ばれている。「アラバマ物語」を観れば理想のアメリカ人像とは何かが分かる。

映画「カポーティ」について少しだけ触れよう。アカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンの名演というか怪演が圧巻である。暗く沈んだ、そして刃物のように研ぎ澄まされた映像も見事。そして映画を観終えたら、トルーマン・カポーティが何故「冷血」を書き終えると筆を絶ってしまったのか、有無を言わせぬ説得力で理解できるだろう。まあ、一言で言えば「とにかく観ろ!」ということに尽きる。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]