2006年10月21日(土) |
From New York to London〜マッチポイント |
ウディ・アレンが監督した映画の約8割は以下の言葉で要約できる。
・舞台はニューヨーク ・アレンが演じる登場人物は神経質で小心なユダヤ人。定期的に精神科医のセラピーを受けている。 ・1920−30年代にヒットしたコール・ポーター、ジョージ・ガーシュウィン、アーヴィング・バーリンなどの曲が映画全編を彩る。
そしてこの定義に当てはまる代表作が「アニー・ホール」であり「マンハッタン」「ハンナとその姉妹」である。しかし最近はマンネリ気味で「さよなら、さよならハリウッド」なんかは余りの詰まらなさにアレンの映画はもう二度と観まいと決意させたほどである。
ところが、である。最新作「マッチポイント」は新生ウディ・アレンを高らかに宣言する大傑作として筆者の前に突如出現した。評価はA。「マッチポイント」が傑出しているポイントを列挙しよう。
・舞台をロンドンに移すことにより映画から実に鮮烈な印象を受けた。 ・音楽がカルーソーが歌うオペラのアリアになり、これも新鮮だった。 ・「魔性の女」スカーレット・ヨハンソンの魅力を恐らく初めて引き出した映画となった。特に彼女が初登場する卓球台の場面、顔の一部分だけ浮かび上がらせるライディング効果が絶妙。嗚呼、なんてセクシー! ・とにかくアレンが役者として出てこないのも高ポイント。 ・表面的には上流階級に憧れる貧しい生立ちの男の悲劇を真面目に描いていているように見えるが、一皮剥けば実に皮肉の効いたブラック・コメディとして成立しているその巧みな二重構造。 ・この滑稽で情けない主人公、これってアレンの分身なんだよね。アレンは女優ミア・ファロー(「カイロの紫のバラ」←アレンが出演せず監督に専念した傑作!)と結婚当時、養女だった韓国人スーン=イと性的関係を持ち、それが発覚。泥沼の離婚訴訟の末にスーン=イと再婚した。その大スキャンダルを彷彿とさせる構成になっているのである。これだけ赤裸々に自分をさらけ出す、その作家としての覚悟に感服した。
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