テレンス・マリックは「地獄の逃避行」(1973)「天国の日々」(1978)「シン・レッド・ライン」(1998)「ニュー・ワールド」(2005)と今までに監督した作品が5つしかない。「天国の日々」と「シン・レッド・ライン」の間なんてなんと20年の空白期間がある。実に寡作な映画作家である。
アカデミー賞で撮影賞を受賞した「天国の日々」(撮影監督:ネストール・アルメンドロス)の映像の美しさは空前絶後である。なんとマリックは映画全編を”マジック・アワー”で撮影したのである。”マジック・アワー”の解説はこちらをみて欲しい。
アルメンドロス亡き後、「シン・レッド・ライン」でマリックは撮影監督のジョン・トールと組んだ。彼は「レジェンド・オブ・フォール」「ブレイブハート」で2度オスカーを受賞し、「シン・レッド・ライン」でも撮影賞にノミネートされた。
マリックが最新作「ニュー・ワールド」で組んだのはメキシコのアルフォンス・キュアロン監督と長年組んでキュアロン・グリーン(筆者命名)を編み出したエマニュエル・ルベツキである。ルベツキは「リトル・プリンセス」「スリーピー・ホロウ」そしてこの「ニュー・ワールド」でオスカー候補になった。
兎に角ルベツキの映像がため息が出るほど美しく、映像に圧倒される。今年撮影賞を受賞したのは「SAYURI」だが、筆者ならば断然「ニュー・ワールド」に軍配を上げる。画面の隅々にまで緊張感がピンと張り詰めていて凄みがある。
「天国の日々」ではサンサーンス作曲「動物の謝肉祭」の音楽から”水族館(アクアリウム)”が印象的に引用されていたが、「ニュー・ワールド」で引用されるのはワーグナーの楽劇「ラインの黄金」の前奏曲とモーツァルトのピアノ協奏曲第23番の2楽章である。「ラインの黄金」は壮大な神話4部作「ニーベルングの指輪」の第1話であり、神々の黄昏を暗示している。つまり映画の冒頭にこの曲がくることでこれはアメリカ大陸の神話であり、天国の日々(Days of Heaven)の終焉を描くのだということを暗示しているのである。実に巧みな選曲といえるだろう。
ただこの史実に基づいた映画、前半は面白いのだが後半ポカホンタスが西洋の衣装を身にまといイギリスを訪問するエピソードあたりから実に詰まらなくなる。テレンス・マリックってその映像はまさに一篇の詩なのだけれど、脚本家としての才能には疑問が残るんだよな。「天国の日々」もお話自体は俗っぽくて退屈だし。しかしまあ、こんな美しい映画は十年に一度しかお目にかかることが出来ないので総合評価としてはA-を進呈する。
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