エンターテイメント日誌

2005年07月14日(木) オスカーのあり方を問う

アカデミー作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞を受賞した「ミリオンダラー・ベイビー」を観て、一月以上経った。レビューを書くまでにそれだけの冷却期間を要したのは、すっきりしない、もやもやした後味の悪さが尾を引いたからである。

筆者の評価はB+だ。確かに傑出した作品であることは渋々ながら認めざるを得ないが、どうしても好きにはなれない、そういうタイプの映画なのである。以下内容の核心に触れるので、これから観ようという方はこれより先を読まないことをお勧めする。

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ボクサーを主人公にした映画と言えば、「ロッキー」「レイジング・ブル」「どついたるねん」の様な映画を連想する。だが「ミリオンダラー・ベイビー」には騙された。それも推理小説を読んだ時やマジックを見た時などの心地よい騙され方ではなく、騙し討ちにあったような不快感である。一見ボクシング映画のようなふりをして、後半は一転、安楽死問題を問う映画に豹変するのだから呆気にとられた。

米アカデミー協会は「みなさん、さようなら」「海を飛ぶ夢」と、ここ二年連続で安楽死を肯定する映画に外国語映画賞を与えている。それに加えて作品賞を本作に与えるという姿勢はあまりにも偏りすぎた裁定ではなかろうか?何か裏で政治的意図が働いているのではないかとさえ勘ぐりたくもなる。

いや、イーストウッドの演出は相変わらず見事だし、確かに映画は極上の出来ではあるんだ。でもこういった題材には最近食傷気味なんだよなぁ。

安楽死問題というのは、自殺を罪深いと考え、地獄に堕ちると怖れるキリスト教徒の彼らからすれば目新しいのかも知れないが、日本人の死生観からすれば何を今更という感じさえする。日本には心中・切腹・神風特攻隊を潔しとする文化がある。

それからオスカーを獲ったヒラリー・スワンクとモーガン・フリーマンの演技は確かに素晴らしい。文句のつけようがない。しかし、スワンクが事故で全身麻痺になり、フリーマンは網膜剥離で片目を失明した元ボクサーという、どちらも身体障害者役というのが引っかかる。結局、<身体障害者><知的障害者><性格異常者><アル中><娼婦><犯罪者>といった特殊な人を演じないとオスカーを受賞できないという鉄則は未だに有効であるという事実を改めて突きつけられて、暗澹たる気持ちになった。

是非来年こそはミュージカル映画「プロデューサーズ」のネイサン・レインとかマシュー・ブロデリックといった<普通の人>を演じた役者が受賞出来ることを心から望む。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]