エンターテイメント日誌

2004年12月11日(土) CG対決!<インクレディブル一家 vs. スカイ・キャプテン>

「Mr.インクレディブル」の評価はAであり、「スカイ・キャプテン/ワールド・オブ・トゥモロー」の評価はDである。

「Mr.インクレディブル」の監督、ブラッド・バードは1999年にワーナーでセル画アニメーション「アイアン・ジャイアント」を撮った。この作品はアニメのアカデミー賞と言われるアニー賞をなんと9部門も受賞するという高い評価を受けたのだが興行的に振るわず、バードはその後新作を撮る機会を与えられなかった。そのバードに声をかけてピクサーに招き入れたのがCalifornia Institute of Artsというディズニーがつくった大学でバードと同期生だった、ジョン・ラセター(「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」の監督)である。ピクサーという会社の懐の大きさがうかがい知れるエピソードである。

ちなみに筆者は「アイアン・ジャイアント」を傑作だとは全く想わない。観ていて退屈だった。評価はせいぜいC止まりだな。E.T.の設定をそのまま戴いているのが見え見えで、でもE.T.みたいなちんこい生き物なら匿うことが出来るだろうけれど、ジャイアント・ロボみたいなロボットを、政府の目から隠すなんて到底無理な話でしょ?余りにもプロットが強引すぎて興ざめだった。虚構の中にもリアリティーは不可欠なのである。閑話休題。

ピクサーは本作で大きな賭に出た。まず初めて人間を主人公にしたこと。CGで人肌の質感を出すことは極めて困難である。だから長編第一作では無機質でCGに馴染む玩具を主人公に据え、その後も昆虫とかお化け、魚などを描きながら、「モンスターズ・インク」から人間を少しずつ登場させて、実験を繰り返してきた。そして遂に技術の進歩に伴い自信をつけたのだろう、今回全面的に人間に取り組み、見事に成功を収めたのである。

さらに大きな冒険として今までの作品は全てレイティングがG(一般向け)だったのに、今回は興行的に不利なPG(児童に不適切な箇所あり。保護者の判断が必要)で行くことを決断した。アメリカのアニメーションでは上映時間が90分以下が主流であるのに本作では115分であるという点も、観客として想定する年齢層を引き上げたことを意味している。だから「Mr.インクレディブル」は大人の鑑賞にも堪えうる、実に血湧き肉躍る冒険活劇として成立しているのである。

まず脚本が凝りに凝っていて素晴らしい。スーパー・パワーを封印せざるを得なくなった経緯、そして鬱屈した日々と、ヒーロー復活の過程が実に面白く描かれている。悪役の屈折した心理にも説得力がある。

映画の原題は製作発表当時は"Mr. Incredible"だったのが、途中で"The Incredibles"に変更された。恐らくシナリオの改稿を重ねる過程において、主人公のインクレディブル氏だけではなく、その家族のキャラクターが膨らんでいったのだろう。沢山の人々が寄り集まって、映画を更に面白くするために最後の最後まで物語を練り上げ、精錬していくピクサーの姿勢が良く分かる。

そしてこの映画の最大の魅力はなんといってもそのスピード感であろう。兎に角目まぐるしく絵が動く、動く!animationのanimの語根は<生気>、<魂>といった意味である。つまりは本来動かないはずの絵に生命を吹き込むというのがアニメーションという芸術なのである。そのアニメーション本来の面白さが「Mr.インクレディブル」では堪能出来、そのことに興奮を禁じ得ないのである。

「Mr.インクレディブル」の特報(TEASER TRAILER)ではジョン・バリーの「女王陛下の007」の音楽が使用されていた。そして映画が蓋を開けてみるとマイケル・ジアッチーノの音楽も完全に007時代のジョン・バリーを彷彿とさせる、ご機嫌でジャジーな音楽をガンガン鳴らしてくれて実に爽快であった。

長くなった。「スカイ・キャプテン/ワールド・オブ・トゥモロー」の悪口は次回のお楽しみ。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]