エンターテイメント日誌

2004年09月22日(水) スイングしなくちゃ意味ないね

前回の日誌で「チルソクの夏」が期待したA級青春映画の殿堂入りを果たせず、何故駄目だったのかを解析したが、想いもかけぬ伏兵が綺羅星の如く突如として現れ、軽々とそのハードルをクリアした。監督・脚本:矢口史靖 の「スイングガールズ」である。これは掛け値なしの大傑作。いやはや、恐れ入りましたっ!

筆者は同じ矢口史靖監督・脚本による「ウォーターボーイズ」に関して、クライマックスのシンクロナイズド・スウィミングの場面だけ高く評価している。だってあの映画、それだけでしょ?

<男がシンクロ!?>というアイディアの一発勝負で、ストーリーは明らかにイギリス映画「フル・モンティ」の焼き直し。ギャグはベタで全く笑えないし、同性愛の男子生徒の描き方なんて気色悪いだけ。ホモセクシャルに対する作者の偏見だけが醜くクローズアップされる形になっていた。それから竹中直人の大仰な演技はわざとらしくて鬱陶しい。だから「ウォーターボーイズ」の評価はC-程度でしかない。

そういう訳で巷では女の子版「ウォーターボーイズ」と言われている「スイングガールズ」には余り期待していなかった。ところが、である。

こんなに軽妙で爽やかな青春群像劇になっているとは驚かされた。登場する女の子たち(and a boy)が実に瑞々しく活写され、観ていてなんだか元気を貰ったような気分になる。今回は劇中に散りばめられたギャグにも気持ちよく笑うことが出来た。コメディとしての面白さは本年屈指の快作「下妻物語」にも肉薄する出来と言ったら褒め過ぎだろうか?今回も竹中直人が登場するが、「ウォーターボーイズ」とは異なり抑えた演技で、目障りではなかった。

本作で何と言っても特筆すべきはヒロインの上野樹里だろう。素朴で、ちょっと意地悪な田舎の女子高生を実に好演している。その太陽のような笑顔がなんとも魅力的。彼女が喋る山形弁もとっても可愛らしい。もう全面降伏である(ただし今年筆者の選ぶ最優秀主演女優賞はセカチュウの長澤まさみであることは未だに揺るがないが)。

今年、上野樹里が出演する映画を観るのはこれで三本目だ。「ジョゼと虎と魚たち」では無神経で偽善者の女子大生として登場し、余りにその演技が上手いので、本人に罪はないのだが役柄のせいで実は彼女に対して反感を抱いていた。だって我らが池脇千鶴ちゃんの恋敵なんだぜ、悪印象でも仕方ないだろ?「チルソクの夏」で彼女は下関の高校生役である。「スイングガールズ」と似た役柄だが、脇役なので印象は薄かった。そこへきて「スイングガールズ」での魅力全開、大爆発である。筆者の不明を恥じると共にその秘められた資質を最大限に引き出した矢口史靖の力量を素直に褒め称えるしかあるまい。

本作は青春映画としてだけではなく音楽映画としても出色の出来である。サッチモ(ルイ・アームストロング)が、あの嗄れ声で唄う'What A Wonderful World'とか、エンディングでナット・キング・コールが唄う'L-O-V-E'の使い方なんて憎いねぇ、泣かせてくれる。直木賞を受賞した芦原すなおの小説「青春デンデケデケデケ」の中で主人公の友人の姉が、一番大好きなのはナット・キング・コールで、その歌声を聴いていると涙が出てくると言っていたのを想い出した(この台詞はデケデケの映画版にも登場する)。

<ハナ肇とクレイジー・キャッツ>の谷啓がトロンボーンを担いで登場するのも嬉しい。でも今の若い世代では、クレイジー・キャッツがジャズ・バンドだったという事実も知らない人が多いのではなかろうか・・・。クレイジーの面々が出演した「ニッポン無責任時代」(1962)は最高に可笑しい音楽映画の金字塔である(一応断っておくが、「ニッポン無責任時代」が公開された年、筆者はまだこの世に生を受けていない)。ちなみにクレイジー・キャッツのメンバー、安田伸(テナーサックス)は映画「青春デンデケデケデケ」に出演している。映画は繋がっている。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]