エンターテイメント日誌

2004年08月07日(土) 韓流怪奇映画 <箪笥>

今、韓国映画には勢いがある。まあ、確かに「シルミド」とか「ブラザーフッド」「ラブストーリー」のような、どうしようもない駄作はあれど、一方で「ほえる犬は噛まない」「殺人の追憶」を撮ったポン・ジュノ監督みたいな途轍もない天才が現れたりする。正に玉石混淆の状態である。やはりこの状況は現在映画の製作本数が多いことに起因するのだろう。日本で喩えるならば、成瀬巳喜男・小津安二郎・黒澤明・木下恵介らが活躍した1950年代、あるいは松竹ヌーベルバーグ、日活プログラムピクチャーが全盛を誇り、鈴木清順・増村保造ら破天荒な監督たちが気を吐いた狂騒の60年代と状況が似ている。

そんな韓国からホラー映画の秀作が届いた。「箪笥」の評価は傑出したB級映画という意味を込めてB+である。

「箪笥」という作品は館(やかた)が主人公という意味ではヒッチコックの「レベッカ」、ロバート・ワイズの傑作「たたり」、最近の作品ならアメナーバルの「アザーズ」を彷彿とさせる雰囲気がある。また、幽霊の造形については「リング」「呪怨」などジャパニーズ・ホラーの影響が色濃い。しかしながら少なくとも「アザーズ」よりは脚本の出来が数段上だし、映画の完成度においても「リング」や「呪怨」を凌いでいるかも知れない。

とにかく耽美である。美人姉妹が主人公という設定が良い。映画冒頭から印象的な俯瞰ショットで始まるなど演出の映像センスが光っている。室内装飾も凝っており、怪奇映画としての堂々たる風格がある。意外な結末も練りに練られており、ドリームワークスが史上最高額でリメイク権を獲得したというのも頷ける。同じドリームワークスが買った「猟奇的な彼女」よりも「箪笥」の方がハリウッド・リメイクが早く実現しそうな予感がする。

面白いなと想ったのは欧米のホラー映画って恐怖の対象が「悪魔」だったり「狂人」や「疫病」だったり、襲ってくる理由がないんだよね。理不尽なんだ。「エクソシスト」だって「悪魔のいけにえ」や「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」「ゾンビ」「エンゼル・ハート」だってみんなそう。神の怒りとか最後の審判といった類の宗教的な意味合いが強いから、対決する相手が神父だったりすることも多い。だから日本人の僕なんかにはどうもピンとこない。怖くない。

しかし日本の怪談の場合、「東海道四谷怪談」を例に挙げるまでもなく怨霊とか死者の恨みが恐怖の原因であることが最も多い。入江たか子さん主演の化け猫映画とか、「リング」「呪怨」だってそう。襲ってくる正当な?理由があるんだ。だから「箪笥」は明らかに日本の怪談に近いので嗚呼、同じ文化圏なんだなぁと非常に親近感を覚えた。結局、最も恐ろしいのは人の心なのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]