エンターテイメント日誌

2004年05月18日(火) 独逸映画二題

「飛ぶ教室」評価:C-
原作は「エーミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」「二人のロッテ」など独逸児童文学の巨匠エーリヒ・ケストナー が書いた小説である。「飛ぶ教室」は1933年に出版され、この年ヒトラーがドイツ国家元首に就任し、この小説はナチスにより出版禁止、焚書の対象となった。ケストナーは二度逮捕され執筆も禁じられるが、それでもナチスの弾圧に屈することなく多くの小説家や詩人などの芸術家たちが祖国を捨てて国外へと避難する中、彼はドイツに留まった。以後1945年まで彼の小説はスイスで刊行された。作品だけが亡命したのである。

さて映画版の方は舞台を現代に置き換えている。映画の製作者たちの意図も理解できないではないが、残念ながらこの翻案が明らかに失敗している。とにかく様々なエピソードが有機的に繋がらない。ケストナーがこの物語に込めた想いが伝わってこない。少年たちが寄宿学校の少年合唱団に所属しているという設定からして全く生かされていない。クリスマスで上演されるミュージカル風劇中劇「飛ぶ教室」のコンセプトも意味不明だし、このラップ・ミュージックがとにかくダサイ。現代独逸における、映画音楽作曲家のレベルの低さが露呈して悲惨としか言いようがない。日本映画における音楽水準の方が段違いに格上である。合唱団の少年がラップをしたがるのも妙な話だ。オーソドックスな音楽劇で良いではないか。現代風を無理に装おうとするから駄目なんだよ。

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「グッバイ、レーニン!」評価:B
今年の米アカデミー外国映画賞部門で何が驚いたって独逸代表のこの映画がノミネートされなかったことである。受賞した加奈陀映画「みなさん、さようなら」(筆者の評価はC)を先日観たが、あんな凡庸な安楽死肯定映画よりもこちらの方が遙かに良い。

息子の母を想う気持ちが素直に出ていて好感度大である。レーニン像がヘリコプターで運ばれる場面はフェリーニの「甘い生活」でヘリコプターがキリスト像を吊り下げているあの有名な映像を彷彿とさせた。それからこの映画の主人公は子供の頃から宇宙飛行士に憧れていて、それが最後に見事な複線にもなっているのだが、これを観ながら「ギルバート・グレイプ」のラッセ・ハルストレム監督がスエーデン時代に撮った名作「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」(アカデミー外国語映画賞受賞)を懐かしく想い出した。あの映画で満天の星空を見上げながら主人公である12歳の少年イングマル君はこう呟くんだよね。“人口衛星スプートニクに乗せられ、宇宙に送られて死んだライカ犬のことを思えば、僕の人生の方がまだ幸せだ。”

「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」を連想したのは僕だけじゃなくってこちらサイトにも同様の感想が書かれていたので、なんだか溜飲が下がった。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]