2004年03月27日(土) |
甦る岩井俊二 <花とアリス> |
筆者は2001.11.13の日誌に凋落する岩井俊二というエッセイを掲載した。それくらい「リリイ・シュシュのすべて」という映画は悪夢のような体験だった。もう生涯二度と岩井俊二の映画を観ることはないかもしれないという覚悟をしたくらいである。14歳の少年少女に「おじさんは君たちの気持ちがよく判るんだよ。」と媚びを売る岩井の醜悪な姿に吐き気を催したし、出演した少年たちが撮ったデジタル・ビデオの汚らしい映像を延々と垂れ流した西表島の場面ではプロとしての仕事を放棄したとしか想えず、むかっ腹がたった。
日本映画史に燦然と輝く青春映画の大傑作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」や韓国では120万人を動員する大ヒットとなった「Love Letter」など詩情溢れる作品を撮っていた頃の岩井俊二は死んだのか?と絶望的な心の闇を抱いて苦節二年半、「花とアリス」にめぐり逢い、漸くその闇を払拭することが叶った。
「花とアリス」の筆者の評価はBである(「リリイ・シュシュ」は勿論F、「打ち上げ花火」はAAA)。褒めちぎる前にまず文句から始めよう。いささか少女漫画みたいな物語展開はどうもぬるい。ポップコーンとかソフトクリームでも食べながら観るのがちょうど良いような軽さである。このような他愛もない話に上映時間が2時間15分というのはいささか長すぎないか?1時間45分くらいまでが妥当なところだろう。筆者の大嫌いなヒロスエが出てきたのにもむかついた。まあ、無神経な役どころだからどうにか許容できたが(笑)。
しかし、この作品の懐かしさは何処から来るのだろう?子供の頃読んだ漫画の「キャンディ・キャンディ」とか、あるいは映画「小さな恋のメロディ」とか「時をかける少女」「アイコ16歳」などを連想させるような雰囲気があり、それが非常に心地良かった。「アイコ16歳」を撮った今関あきよし監督が以前インタビューに答えてこんなことを言っていたのを想い出した。
「この映画を観た人がね、主役の女の子がとっても可愛く撮れてるねって褒めてくれたんです。これはボクにとって最大の賛辞ですね。」
恐らく「花とアリス」を撮り終えた岩井俊二も今関と同様の感慨を覚えているのではなかろうか?物語などは二の次で、スクリーンの中の少女たちが目映いばかりに輝いていればそれで良い…と。彼女たちを理解しようという姿勢を端から放棄して、少女という得体の知れない生き物として客観的に覗き見るように描こうとする潔さにも好感を覚えた。
兎に角、アリスを演じた蒼井優が素晴らしい!「打ち上げ花火」の奥菜恵、あるいは「Love Letter」の酒井美紀と同様に岩井はここで一瞬に閃き、二度と取り戻すことの出来ぬ少女の掛け替えのない、うつろいゆく瞬間(とき)を捉え、フィルムに焼き付けることに見事に成功している。蒼井優は映画「害虫」などで既に知っていたが、これだけのオーラを放つ可能性を秘めた女優だという認識は不覚にも全くなかった。特に本作のクライマックス、オーディションでバレエを踊る彼女は、まるで女神のような神々しさで、その眩しさにただただ唖然とし、口をあんぐりと開けてスクリーンを呆けたように見つめるしかなかった。彼女のフォルムが桁外れに美しい。これは究極の美少女映画である。
え、鈴木杏?そんな娘、出てたっけ?
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